監修された特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」(※2022年6月19日まで国立科学博物館、7月9日から名古屋市科学館にて開催予定、以降「宝石展」)の開催を間近に控えた2月14日、著書「決定版 アンカットダイヤモンド 品質の見分け方と価値の判断のために」が発売された、諏訪貿易会長の諏訪恭一(すわやすかず)氏。
アンカットダイヤモンドに特化した内容で、歴史や産地を始めとしたダイヤモンドの詳しい説明と美しい画像が散りばめられ、全143ページという読み応え十分のこの本。
ぜひお話を伺いたいということで、東京都内のオフィスにお邪魔し、本誌の見どころやアンカットダイヤモンドの魅力について、たっぷりと語って頂きました!
目次
諏訪恭一氏について
既にご存知の方も多いと思いますが、まずは簡単に諏訪恭一(すわやすかず)氏についてご紹介しますね。
諏訪恭一氏は、明治41年に創業された諏訪貿易の三代目であり、現会長でいらっしゃいます。
1965年、日本人で初めてアメリカのGIA(米国宝石学会)でG.G.を取得されたことでも知られています。
「決定版 宝石」(世界文化社)、「価値がわかる 宝石図鑑」、「品質がわかる ジュエリーの見方」(ともにナツメ社)など、宝石にまつわる著書も多く発表されています。
以前にも何度か取材させて頂いており、宝石商についてのお話なども伺っていますので、良かったらそちらも読んでみて下さいね。
「決定版 アンカットダイヤモンド」を制作するきっかけ
すでに(取材日3月中旬時点)、増刷が決定しているというこの本。
アンカットダイヤモンドとは、その名の通りカット(加工)されていないダイヤモンドのことで、諏訪先生が長らく心惹かれているものの一つです。
並々ならぬ熱い想いが込められているこの本について、ジュエリーがずらりと並ぶ諏訪貿易オフィスの一室で、まずはその執筆の経緯から順に伺いました。
『そもそもの始まりは、12年前に「ダイヤモンド 原石から装身具へ Diamonds : Rough to Romance」という本の執筆のため、ダイヤモンド研磨の聖地・ベルギーのアントワープに通っていた頃の出来事です。
あるとき、とあるディーラーが『ダイヤモンド原石には研磨してしまうには惜しい、魅力的なものもあるんだよなあ』とつぶやいたんですよ。
これに、私感銘を受けてしまって。だって、採掘されたダイヤモンドのうち99%はブリリアントカットなどに研磨されてしまいますからね。磨いてどうなるか、を想定して価値がつけられるもので、そのままの美しさは考慮されない訳なんです。
だけど加工を加えなくても、そのままの姿がとてつもなく美しいアンカットダイヤモンドが中にはあるんです。
ダイヤモンドって、よく『類い稀な硬さ』とか『征服されざるもの』なんて言われますけど、カットや研磨をされたダイヤモンドは人間が征服しちゃったものでしょう。つまり、まだ誰にも征服されていないアンカットのものこそがダイヤモンドの真髄だと考えているし、その美しさをより多くの皆さんに知って頂きたい、ということが、この本を出すきっかけであり、根底にある思いです。』
アンカットダイヤモンドの魅力
美しいアンカットダイヤモンドと出会うことはとても難しいといいます。
『アンカットダイヤモンドの魅力というと、研磨されなくても美しい、そのままの姿にまずはある訳だけど、アンカットダイヤモンドの中でも本当に良いものというのは、とても珍しいんですよ。それが一番分かるのが、この53ページのいくつものダイヤモンドを並べた写真です。』
『どれも良いダイヤモンド原石ですが、これだけあっても均整が取れて、肌合いも良いものって、結局1つ程度しかありません。1,000個カットしたものがあっても1個程度という希少性。そこにもまた一つの魅力を感じますね。』
「決定版 アンカットダイヤモンド」の見どころ
諏訪先生いわく、アンカットダイヤモンドがもつ美しさというのは、いくつかの要素からなる総合的なものとのこと。
『クオリティスケール(諏訪先生が考案された、実際の宝石を用いて、品質を表した比較図表)で言うと、アンカットダイヤモンドの場合は縦軸を均整、横軸を肌合いとしています。さらに肌合いにも2つの要素があって、透明度と艶を表しているんです。そういったことが、「第3章 品質」にまとまっているので、ぜひご覧いただきたいと思いますね。
このクオリティスケールも、本誌の見どころの一つだと思います。』
『付章として紹介している「ダニエル コレクション」も別の見どころの一つ。これも「ダイヤモンド 原石から装身具へ Diamonds : Rough to Romance」の執筆でアンドワープに通っていた頃、共同著者のアンドリュー・コクソン氏から、長年の友人としてダイヤモンド・ディーラーのダニエル・デ・ベルダー氏を紹介されたことに始まりました。』
彼が20数年間かけて集めた、ユニークなダイヤモンドのコレクションを見せてもらった時、あまりにも感銘を受けて『これは、沢山の人に見てもらいたい。ぜひ紹介したい』とお願いしたんですよ。そうしたら、『売れないから貸すだけだよ』と言いつつ、快く貸し出してくれました。
撮影を終えてお返しして、アントワープで改めて見せてもらう機会があったのですが、その時に彼が『This is yours(あなたに持っていてほしい)』と言ってくれたんですよ。対価は勿論払いましたが、それらを譲り受けることができたんです。以来、これらは私の宝物になりました。
なにしろ、面白いんです。ユニークダイヤモンドと言って、どれが希少だなんて言えないくらい、みんな希少なんですね。ナスカの絵みたいな彫りがあったり、自然が作ったとは思えない模様が沢山入っていて。』
『私の手に渡っても、集めたのはダニエル氏ですから「ダニエル コレクション」と呼んでいます。世界中のダイヤモンドが集まってくる、ダイヤモンドディーラーの彼だからこそ集めることができたものだと思いますね。
「あなたのものですよ」と言ってもらえたときは本当に嬉しかったですね。その恩返しとして本にして、こうして紹介できることをとても幸せに思います。』
「決定版 アンカットダイヤモンド」写真への拘り
そんな思い入れのあるダイヤモンドの数々も収録されている「決定版 アンカットダイヤモンド」。
特に拘った部分をお聞きしました。
『写真が良くなければ宝石の魅力は伝わりませんから、本は写真が命だと思っています。そこは、毎回とても拘っています。実現できたのは、カメラマンの中村淳氏が撮影してくれたから。細かいダイヤモンドも苦労して並べて、撮影してくれました。宝石の撮影って、光の加減や色々な匙加減があるからとても難しいんだけど、だからこそ撮るのが楽しくなっちゃったみたいで(笑)。全部を上手く撮影してくださいました。』
特に気に入っている写真は?
『特に気に入っているのは、背表紙の写真ですかね。このトライゴン(アンカットダイヤモンドの面に出現する三角形または逆三角形の模様)には驚きました。これが自然の産物だなんて、本当に不思議ですよね。』
「アンカットダイヤモンド」という名称と本への思い
『分かりやすさという点も考え抜いて、拘った部分です。そもそもアンカットダイヤモンドという言葉を社内で定着させるまでに実は10年程掛かっています。それほど分かりにくいんですよね。
加工されたダイヤモンドは、正確には、「カット・アンド・ポリッシュド・ダイヤモンド」と呼ぶべきだと思うのですが、一般的にはそれを「ダイヤモンド」と呼んでいる。
そのため、名称・タイトルには本当に悩まされました。「ラフダイヤモンド」だなんて呼ぶこともありますけれど、ラフというのは宝飾用か工業用に磨くための前段階のものも指しますから。でもこれは、このままで価値を持つダイヤモンドたちです。その言葉の仕分けには苦労しました。
それを分かってもらうために、皮がついたままのリンゴと、皮を剥いて磨いたリンゴを見せて説明しようか? という話も出てたくらいなんですよ(笑)。』
『アンカットダイヤモンドだけを集めた本というのは、史上初、恐らく世界でもまだないのではないかと思います。
ですけど、一般の方が見ても楽しめるものになったと自負しています。自然からどうしてこんな美しいものが生まれたのか。一つとして同じものがない、個性があって。人間の顔と同じですよね、どれが良いっていうのも見方次第だしね。』
最も伝えたいこと
最後に、この本を通して最も伝えたいことをお聞きしました。
『これから、アンカットダイヤモンドの価値は更に高まると思ってるんです。今まで出てきたものはほとんど削ってしまっていますからね。
なぜこれを今本にまとめたか、ということに立ち返ると、やっぱりアンカットダイヤモンドのありのままの姿を皆さんに知って頂きたいということ。それから、プロの方には品質と価値の判断の参考にしてもらえればと思っているんです。アンカットダイヤモンドと言っても1,000円のものも100万円のものもあるわけですから。
これまで10年以上見てきて、あくまで私見ですけれど、私が学んだことをまとめて記しましたので、これを一つの指標として、今後若い方たちがアンカットダイヤモンドに親しんで頂ければ良いなと思っています。
何よりも伝えたいのは大自然の力強さですよね。これをより多くの方に楽しんで、大切にしてもらえると嬉しく思います。』
この本を読んだ上で、国立科学博物館で開催中の宝石展※へと足を運べば、更にその魅力を深く感じることができるのではないかと思います。
※国立科学博物館は6月19日まで。7月9日からは名古屋市科学館にて開催予定
「ダニエル コレクション」も10点が展示されているそうですので、これから行かれる方はぜひその目で見て来て下さいね。
ただ、実物はとても小さいものですので、細部などは本で、肌合いや透明度などは実物で、それぞれ見てもらうのが良いのではないかと思います。
最後に
今回はじめて、その詳細を伺うことができたアンカットダイヤモンドの神秘。
諏訪先生のダイヤモンドへの愛と、伝えたい、届けたい、という想いがひしひしと伝わってくるお話の数々でした。
詳細はぜひ、「決定版 アンカットダイヤモンド 品質の見分け方と価値の判断のために」でお楽しみください。
なお、この取材を機に、諏訪先生のサイン入り本をカラッツSTOREでも販売することとなりました!
ダイヤモンドとセットで販売しています。宜しければチェックしてみて下さいね。
カラッツ編集部 監修