猫の目がそのまま宝石になったような、不思議な魅力を放つクリソベリルキャッツアイ。
海外でも人気があり、メンズジュエリーの素材としてもよく見かけます。
光が当たると、一筋のラインが浮かび上がる姿はとても神秘的で思わず見惚れてしまいます。
この不思議なラインはどうして現れるのでしょうか。
クリソベリルキャッツアイの特徴、産地、名前の由来、価値基準、市場価格、お手入れの方法など、気になるアレコレをご紹介いたします。
ミステリアスで愛くるしいクリソベリルキャッツアイの秘密を一緒に解き明かしていきましょう。
目次
クリソベリルキャッツアイとは
クリソベリルキャッツアイは、鉱物クリソベリルの変種のひとつで、上から光を当てると、中央に一筋の光のラインが現れる宝石です。
この光学効果は、宝石内部に針状やチューブ状のインクルージョンなどが入り、一方向に平行に並ぶことで現れるとされ、猫の目のように見えることからキャッツアイ効果またはシャトヤンシーと呼ばれています。
トルマリンやオパールなど多くの宝石に見られますが、代表的なものがクリソベリルキャッツアイで、それ故、クリソベリルキャッツアイのことを、ただの「キャッツアイ」と呼ぶこともあります。
キャッツアイ効果(シャトヤンシー)が見られる宝石は、そのラインが見えやすいように、ドーム状のカット(カボションカット)にされることが多いです。
▼キャッツアイ効果をもつその他の宝石やその魅力についてはこちらから
鉱物としての基本情報(クリソベリル)
英名 | Chrysoberyl (クリソベリル) |
和名 | 金緑石(きんりょくせき) |
鉱物名 | クリソベリル |
分類 | 酸化鉱物 |
結晶系 | 斜方晶系 |
化学組成 | BeAl2O4 |
モース硬度 | 8.5 |
比重 | 3.68 – 3.80 |
屈折率 | 1.74 – 1.77 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
クリソベリルキャッツアイの最も一般的な色合いは、本物の猫の目の色によく似ています。
そのため「飼い猫の目にそっくり」ということで気に入って購入された、という話もよく聞きます。
硬度が8.5と高いため、日常的なジュエリーとしても楽しめます。
前述したように、キャッツアイ効果は宝石内部にあるインクルージョンの状態によって生まれます。
キャッツアイ効果が真っ直ぐ、はっきりと、かつ真ん中に見えるものほど貴重とされます。
色
クリソベリルキャッツアイの色は、イエロー~オレンジ~ブラウン、グリーン、グレーなどです。
代表的な色はハニーカラー(はちみつ色)で、前述したように、猫の目の色合いにも似て、非常に人気があります。
個人的には和の美しさを感じるモスグリーンも非常に魅力的だと思いますし、ブラウンの渋い佇まいにも心惹かれます。
色によって受ける印象が変わるのも宝石の面白さであり、楽しみ方のひとつですよね。
最高品質のひとつに数えられるのが、ミルクアンドハニーと呼ばれるもので、横から光を当てると、キャッツアイのラインを境に半分がハニーカラー、半分が乳白色という珍しい見え方をします。
その姿はとても幻想的で、何とも言えない美しさがありますよ。
産地
クリソベリルキャッツアイの主な産地はスリランカ、ブラジル、インド、マダガスカル、タンザニアなどです。
クリソベリルはスリランカ、ブラジル、ミャンマー、アメリカ、タンザニア、マダガスカルなどが主な産地といわれていますので、大体似ているように思います。
原石の形
クリソベリルは花崗岩や花崗岩ペグマタイト、片麻岩、雲母片岩、大理石などの中で生成されるといわれています。
風化した母岩からそのままこぼれ落ち、河川の砂礫の中から見つかることも多いそうです。比重が重いため、川底に集まりやすいのだそうですよ。
過去に訪れたスリランカで、長い棒を使い川底の宝石を採取する光景を目にしたことがあります。
あの場所でキャッツアイも採れていたかもしれないと思うと、なんだかワクワクします。
クリソベリルキャッツアイの結晶は主に半透明で、ガラス光沢をしています。
結晶系は斜方晶系で、双晶で見つかることも多いそうです。複数の結晶が合わさり、三角形や六角形になったりすることもあるとか。
名前の意味
クリソベリルはギリシャ語で黄金という意味のクリソス(chrysos)と鉱物ベリル(beryl)を組み合わせた名前です。
ベリル(beryl)とはエメラルドやアクアマリンが属する鉱物で、当初、ベリルの一種だと思われていたことから、「黄金のベリル」という意味でそう名付けられたといわれています。
ただ、ヴィクトリア朝時代からエドワード朝時代のヨーロッパで大流行した際は「クリソライト(Chrysolite)」と呼ばれていたという話もあります。
当時は色合いを重視して名前が付けられることも多かったため、ペリドットやトルマリンなどグリーン系の宝石全般を呼ぶ名前だったともいい、そのために混同されてしまうこともあったようです。
クリソベリルキャッツアイは、かつては、ギリシャ語の「キマ(波)」と「ファイネン(見える)」を組み合わせた、「サイモフェーン」という名前で呼ばれていたと伝わります。
現在は、キャッツアイ効果をもつクリソベリルという意味で「クリソベリルキャッツアイ」または「キャッツアイ」と呼ばれることが一般的です。
石言葉
クリソベリルキャッツアイの石言葉は「気まま」「静かに見守る」です。
どちらも猫のイメージにピッタリ当てはまると思いませんか?
キャッツアイ効果を見た人が、猫のイメージをそのまま石言葉にしたのかもしれませんね。
誕生石
クリソベリルキャッツアイは2月の誕生石です。
「え?2月はアメジストじゃないの?」と驚かれる方が多いかもしれませんが、2021年に誕生石が改訂され、クリソベリルキャッツアイが新たに仲間入りしたのです。
なぜ2月かというと、ひとつは、日本では2月22日が「猫の日」、ヨーロッパの多くの国では2月17日を「World Cat Day(世界猫の日)」としており、猫に関する記念日が重なっていること。
もうひとつは、シャトヤンシーは「目が出る」という縁起の良い意味を含むことからなのだそうです。
▷参考サイト:https://i-rori.com/birthstone/
クリソベリルキャッツアイの仲間
画像:クリソベリル
クリソベリルキャッツアイと同じ鉱物クリソベリルには、個性的な仲間が存在します。
代表的な2種について、ご紹介しましょう。
アレキサンドライト
アレキサンドライトは自然光や蛍光灯の下ではブルー~グリーン、白熱灯やロウソクの光の下ではレッド~パープルに変わる摩訶不思議な宝石です。
同じクリソベリルという鉱物に属しますが、見た目が全く違うため、初めて見たときは同じ宝石とは全く思えませんでした。
ロシアで発見されたアレキサンドライトは、発見された日が当時皇太子であったアレクサンドル2世の誕生日だった(※)ことからその名が付けられたとされ、今でも特別な宝石として愛されています。※諸説あり
現在の主な産地はブラジル、インド、スリランカなどで、ロシアでは殆ど採掘されないといわれています。
透明度が高く色変わりが顕著なアレキサンドライトは希少価値高く、1ctで100万円以上になることもあります。
筆者も過去に8年ほどアレキサンドライトを扱ってきましたが、年々手に入りにくくなってきている印象がありました。特に高品質のものは、価格も上昇傾向にあるように思います。
そんなアレキサンドライトのなかにもキャッツアイ効果をもつものがあります。
変色効果とキャッツアイ効果を併せもつその姿は、自然の神秘が詰まっているようで、とても好奇心を掻き立てられる宝石の一つです。
パロットクリソベリル
ネオン感のある鮮やかな色を持つパロットクリソベリル。
「パロット」とは鳥の「オウム」のことを指し、オウムの羽に似ていることから名付けられました。
インドのオリッサ州にあるチンタバリ鉱山で発見され注目を集めましたが、6年ほどで枯渇してしまったといわれています。
ただ、クリソベリルは産地証明ができない宝石で、色の評価が合えば産地にかかわらずパロットクリソベリルと呼ばれるため、違う産地のものも存在するかもしれません。
通常のクリソベリルよりも、希少性・人気ともに高いことから価値も高く扱われます。
クリソベリルキャッツアイの偽物
クリソベリルキャッツアイにも偽物が存在します。
「キャッツアイガラス」と呼ばれるガラスが多いようです。
過去にお客様のジュエリーを拝見する機会が多くありましたが、明らかにクリソベリルキャッツアイではないのに似たような効果を見せる石を何度か見たことがあります。
恐らくガラスを間違って購入されてしまったのだと思います。
天然石の中で見た目がよく似ている、アパタイトキャッツアイやシリマナイトキャッツアイなどがクリソベリルキャッツアイとして出回ることもあるようです。
キャッツアイガラスの見分け方
クリソベリルキャッツアイの偽物として多く出回るキャッツアイガラスの見分け方を一つご紹介します。
一目見ただけでは、特に一般の人は、判断が難しいと思いますが、ポイントを知っていることで引っ掛かることができるかもしれませんので、良かったら試してみてくださいね。
正面から見た時は普通のキャッツアイのように光の帯が中央に出ていますが、側面に光が反射するように見てみると、たくさんの六角形が連なったような模様が見えます。
これは、キャッツアイガラスの特徴である「蜂の巣構造」と呼ばれるもので、天然のクリソベリルキャッツアイには見られないものです。
もしこのような模様を見つけたら、購入は留まった方が良いかもしれません。
https://twitter.com/keiichiro_oyama/status/1263773634927058945
クリソベリルキャッツアイの価値基準と市場価格
クリソベリルキャッツアイは個々によってキャッツアイ効果の出方や色が違い、それによって価値が変わります。
どのようなものに高い評価が付くのでしょうか。
購入を検討する前に、まずは価値基準と市場価格を確認していきましょう。
価値基準
まず、色が濃くてキャッツアイ効果が美しく現れるもの、そして、透明度が高いほど、価値が上がります。
キャッツアイ効果の美しさは、
真上から光を当てたときに、①端から端まで真っ直ぐに、②はっきりと、③宝石の中心に出るものほど良いとされています。
真ん中にバシッと線が出るクリソベリルキャッツアイはまさに猫の目のようで、とても神秘的です。本当に美しいものはキャッツアイが煌々と輝いているようにも見えます。
サイズも大きいほど、価値が上がり、3ct以上の大きく高品質なものはとても珍しいとされます。
最高品質の色合いのひとつとして先にご紹介した、「ミルクアンドハニー」も価値高く扱われます。
これはあくまでも個人的な印象ですが、「ミルクアンドハニー」はハッと目を引く華やかさがありつつも、どこか母性のような優しさを感じる宝石のように感じます。
市場価格
クリソベリルキャッツアイは品質によって価格が変わります。
クオリティによって、ルースであれば数千円から探すことも可能です。
1ct以上でクォリティの高いルースは数万円以上することが多く、ミルクアンドハニーになると数百万円以上するものもあります。
大きくなればなるほど希少性も上がり価格も上がっていきます。
過去の経験上、大きくて高品質なものは一気に価格が高騰する印象です。
過去8年ほどキャッツアイも扱っていましたが、ミルクアンドハニーは年々数が少なく手に入らなくなっている印象でした。
さらに価格も高騰しており、前年は3ctのものを仕入れられたけど、今年は高すぎて買えない、なんてことも珍しくなかったです。
どこで買える?
クリソベリルキャッツアイは希少な宝石なので、探すならレアストーンを扱っているお店がオススメです。
レアストーンの扱いの多いオンラインショップなどは品揃えが良いところもあり、見比べることもできると思います。
ただ、2月の誕生石に追加されたため、今後取り扱うお店が増える可能性は大いにあると思います。
ミネラルショーなどのイベント、宝石店の展示会などでも見つけられますよ。
ミネラルショーは色々なお店が出展していますので、様々なクオリティのルースを見つけられるチャンスだと思います。
私はキャッツアイを探すときはいつもライトを持参していきます。
室内だと色々な方向からライトが当たり、キャッツアイの出方や方向が見えにくい場合があるからです。
ライトの強さにも依ると思いますが、私の場合は大体、クリソベリルキャッツアイの真上20cmぐらいの高さから光を当てて、色とシャトヤンシーの状態を見ています。
クリソベリルキャッツアイのお手入れ方法
クリソベリルキャッツアイは硬度が8.5と高く普段使いしやすい宝石です。
日常的なお手入れとしてオススメなのは柔らかい布で拭くこと。
身につけると気付かないうちに皮脂やホコリなどがついてしまいますが、表面だけでなく裏面の溝も拭いてあげると良いですよ。
汚れが目立ってきたら中性洗剤を薄めたぬるま湯にしばらく浸け、柔らかい歯ブラシで磨くと拭くだけでは取れない汚れもキレイになります。
磨いた後は洗剤を流して柔らかい布で拭いてあげてくださいね。
クリソベリルキャッツアイの歴史
古代の人々は、キャッツアイは第三の目を司ると信じていたと伝わります。
キャッツアイを目の前に出されたら、偽りを言わずに全ての真実を伝えなければならなかったとか。
特に東洋で神聖な石と崇められることが多く、例えば、主産地のひとつとしても知られるスリランカでは、悪いものから身を守ってくれる『魔除けの石』と信じられていました。
また、ヒンドゥー教では健康を保ち貧困から守ってくれる石として珍重されていたそうです。
世界最大のクリソベリル・キャッツアイは?
ジ・アイ・オブ・ザ・ライオン
出典元:https://www.gemsociety.org |
『ジ・アイ・オブ・ザ・ライオン(ライオンの目)』と呼ばれるものが世界最大のキャッツアイです。
発見されたのは1800年代後半のスリランカで、原石は700カラット以上もあったそうです。
スリランカの王族に所有された原石は、1930年にラトナプラの一流研磨士によって465カラットのカボションにカットされます。
スリランカの国旗でもあるライオンに敬意を表した『ライオンの目』という名称は、所有者である王族一族によって命名されます。
カボションカットされたキャッツアイは、美しいペンダントとしてセッティングされ、セイロン総督によって身に着けられました。
あるセレモニーでこのキャッツアイを見たインドのマハラジャは、その美しさに釘付けになってしまい、セレモニーの間中ずっと目が離せなかったといわれています。
キャッツアイの産地としても有名なスリランカは、キャッツアイを国石に選定しています。
最後に
クリソベリルキャッツアイは、本物の猫の目のような色合いとキャッツアイ効果が楽しめる宝石です。
屋外や窓辺で太陽光を当てると美しい目が浮かび上がり、時間を忘れていつまでも見ていたくなります。
最も一般的なのはハニーカラーと呼ばれるイエロー系の色合いですが、グリーンやブラウン、グレーなどさまざまな色合いを呈します。
歴史的にも古く世界中で広く愛されてきた宝石ですが、近年新しく日本の2月の誕生石に選ばれたことで注目を集め、今後需要が高まる可能性もあります。
皆さまに、素敵なクリソベリルキャッツアイとの出会いがありますように。。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『有名石から超希少石まで美しい写真でよくわかる 宝石図鑑』
著者:KARATZ 監修:小山慶一郎/発行:日本文芸社
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『世界を魅了する 美しい宝石図鑑』
著者:ジュディス・クロエ 日本語版監修:石橋隆/発行:創元社
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院 ほか
▽参考書籍・参考サイト一覧▽