インド洋に浮かぶティアードロップ形の島国、スリランカ。
輝く(シュリ)島(ランカー)という意味をもっていて、北海道よりひと回り小さい面積に豊かな自然がぎっしり詰まった、ミラクルアイランドです。
昔はセイロンと呼ばれていて、セイロン茶が有名なことからおいしい紅茶がとれる国ということでご存知の方も多いのではないでしょうか。
スリランカは宝石の国としても大変有名です。
井戸を掘ると宝石が出てくるという逸話があるほど。
エメラルドとダイヤモンドとオパール以外の宝石は全て出るとも言われているスリランカ。
その中で恐らく最も有名なのはサファイアではないでしょうか。
ということで、今回はそんなスリランカ産のサファイアについてお話しましょう。
目次
サファイアについて
サファイアという宝石名は、宝石に興味が無い方でもご存知ではないかと思う程、とてもポピュラーですよね。
紀元前7世紀頃からずっと愛され続けている長い歴史もあります。
サファイアと聞くと、サファイアブルーと呼ばれる、鮮やかな青色を思い浮かべる方が大勢いらっしゃることでしょう。
ラテン語で青色という意味のサファイアは、まさに青色宝石の王様。
その中でも最高級といわれているのがインドのカシミール産コーンフラワーブルーのサファイアです。
「ヤグルマギクの花の色」といわれていて、その独特で滑らかな輝きは言葉で言い表せないほど美しいのです。
ロサンゼルス自然史博物館には、推定1億円のカシミール産サファイアがあるそうですよ。
これぞコーンフラワーブルーです!
しかし現在は、カシミールからは殆どサファイアが採れなくなってしまったといわれています。残念・・・。
私は遠い昔、カシミールが平和だった頃に旅したことがあって、ハウスボートが浮かぶ湖や氷河の残る雪山が美しい、とても幻想的な地域だったのを覚えています。
宝石屋さんもあったのに、その頃は興味が無かったのと、貧乏旅行だったので何も買わなかったことを今でも悔やんでいます。
このようにブルーが有名なサファイアですが、実は様々な色があり、それらはファンシーカラーサファイアやファンシーサファイアと呼ばれていることをご存知でしょうか。
カラフルなサファイアを色順に並べて、キラキラのグラデーションを作ってみると楽しいですよ!
鉱物としての基本情報
サファイアの鉱物名はコランダム。酸化アルミニウムの結晶です。
純粋な状態のコランダムは無色透明なのですが、それに微量の元素が入ることで様々に発色します。
ちなみに、赤く発色しているコランダムはルビーで、それ以外の色は全てサファイアに分類されているのですよ。
基本色味だけの判断となるそうで、ルビーとピンクサファイアのどっちなの?と分類に困る色のものもあったりします。
モース硬度は9。サファイアは、ダイヤモンドに次いで硬い宝石なのです。
ダイヤモンドのように特定方向からの衝撃に弱い劈開(へきかい)と呼ばれる性質ももたないため、靭性が高いとされ、ジュエリーとして楽しみやすい宝石の筆頭と言えるのではないでしょうか。
スリランカ産サファイアの特徴
憧れのコーンフラワーブルーに近い色合いをもつサファイアは、インドのすぐ近くにあるスリランカでも採れるのですよ。
スリランカには宝石店が沢山あり、どこでもサファイアを手に入れることができます。
地方には原石を取引する青空マーケットもあり、太陽の光にかざしたり、ルーペで石を調べている人たちの様子も見ることができて楽しいですよ。
サファイアと言ってもグレードや産地によっていろいろ違いがありますよね。
スリランカ産サファイアにはどのような特徴があるのか、もう少し細かく見ていきましょう!
原石の形
スリランカ産サファイアの原石は、ガラス質で透明感のあるものが多く、特別に「グラスボディ」と呼ばれています。
スリランカでは「井戸を掘ると宝石が出てくる」と言われるほど、あちこちで宝石が出ることで有名なのですよ。
特にラトナプラという地域では、原石を採るための小屋が田んぼの真ん中や川辺に建っている独特の風景を見ることができるんですよ。
ちなみに、ラトナプラの「ラトナ」はサンスクリット語で「宝石」という意味。「プラ」は「町」なので、ラトナプラは「宝石の町」という意味なのです。
スリランカの公用語はシンハラ語ですが、インドのサンスクリット語が元になっている言葉が沢山あるのですよ。
スリランカに住んでいた時、私はラトナプラを車で通り、宝石を採っている風景を遠くから眺めるのが好きでした。
観光客相手の採掘場と違い、それを職業としている方々は本当に真剣で、軽々しく近づくことは許されません。昔は女人禁制の所も多かったとか。
小屋では、宝石の原石を探す作業が行われています。
地中から運び出された小石がザルに入れられ、それを持った人が腰まで水につかってリズミカルに洗い出すのですが、ザルの中から素早く原石を見つけ出す様は、まさに熟練した職人技だなーと感動したものです。
サファイアのグラスボディはとても目立つので、小石の中に混じっていてもすぐにわかるのだとか。
ブルーのサファイアが出た時は「ニル!」と言って大喜びするそう。ニルとは、シンハラ語で「青」という意味です。
良い原石が出た時は、その場に居合わせた全員で一緒にラトナプラの中心地にある宝石マーケットに行き、いくらの値が付くのか皆で見守る、という話も聞きましたよ。
シルク・インクルージョンとは
スリランカ産サファイアの特徴の一つに、シルクインクルージョンがあります。
スリランカの宝石店でサファイアを見せてもらった時、ルーペで内部を見るとシルク・インクルージョンのあるものが多かったのを覚えています。
まるでオーロラみたいに、はっきり見えるものもありました。
「もっと透明なサファイアが欲しい」と私が言うと、お店の人から「あなたにホクロがあるように、宝石にもインクルージョンがある。それは天然の印なんだから気にしなくて大丈夫!」と、よく言われたものです。
シルク・インクルージョンとは、コランダムによく見られる内包物で、細い針状のルチルがまるで絹糸のように見えることから名付けられたとか。
ルチルは酸化チタニウムのことで、加熱すると消えてしまうのです。
つまり、シルク・インクルージョンは非加熱・無処理のサファイアの証といえるでしょう。
スリランカの非加熱サファイアの約3割に、シルク・インクルージョンがあるといわれているそうです。
しかし注意したいのは、加熱処理したサファイアにもインクルージョンはあります。
種類は異なるものの、見分けるのには知識が必要でしょう。
※他の産地のサファイアにもシルクインクルージョンが含まれていることはあります。
蛍光性
ブラックライトなどを用いて紫外線をあてると、赤~オレンジに蛍光するサファイアがあるのをご存知でしょうか。
一般的にブルーサファイアは蛍光反応を示さないものが多いですが、一部蛍光するブルーサファイアもあります。
違いは、成分の中に微量のクロムが含まれているか否か、昔はそれらをクロムサファイアと呼んでいたそうです。
実はコランダムにおける蛍光性はクロムの影響が強いと考えられています。
ルビーには蛍光するものが多いといわれていますが、その理由は恐らくルビーの赤色の発色要因もクロムだから。ルビーの中に含まれるクロムが赤色も蛍光性も作り出しているという訳ですね。
ちなみに、鉄は蛍光性を抑制すると考えられているそうです。
そのため、クロムが含まれていても鉄も多ければ、抑制されて蛍光性が弱まることもあるようで、クロムと鉄の含有量の割合などが蛍光性の強弱に影響を与えるということなのだそうです。
これぞ自然の奥深さですねー。
そして、スリランカ産サファイアにはクロムが含まれるものが多いそうです。
このことから、蛍光反応を示すブルーサファイアは、スリランカ産の可能性が高いと考えられているそうですよ。
ブラックライトを手に入れて、沢山のサファイアに次々と当ててみたくなりますね。
お手持ちのブルーサファイアに試しにブラックライトを当ててみたら蛍光した!という話も聞きますので、ブルーサファイアとブラックライトをお持ちの方は試してみても面白いかもしれません。
ブルーサファイアが赤色にチェンジする、劇的な蛍光反応には感動すら覚えますよ!
宝石に蛍光反応があるなんて、地球の神秘を感じてしまいます。
スリランカ産サファイアの色
スリランカでは、あらゆる色のサファイアが採れます。
それぞれの色に明度や彩度、色相の幅があり、品質も実に様々です。
私はスリランカで、はじめてファンシーカラーサファイアの存在を知ったのですが、こんなに色とりどりなんだ!と楽しくなってしまいました。
スリランカで採れるサファイアの色についてもお話しましょう。
ブルーサファイア
スリランカ産のブルーサファイアは、少し紫がかったブルーが多く、透明度が高いのが特徴です。
色の付き方が均等ではなく偏っているものもあります。
スリランカの宝石屋さんで教えてもらったのですが、サファイアのグレードで一番低いものは、青色が薄すぎたり濃すぎたりするものなのだそうです。
殆ど黒にしか見えないほど、色の濃いサファイアもありましたよ。
ジュエリーとしてセットする場合は、濃くて暗めの色よりは、薄くて明るいサファイアのほうがキラキラして良い、というアドバイスもいただきました。
色が薄いものでも、明るい空色のサファイアなどはキラキラしていて、とても綺麗でしたよ。
インクブルー
そのひとつ上のグレードには、インクブルーと呼ばれるサファイアがきます。
ちょっと暗めで群青色に近く、インクの色にそっくりなので、インクブルーとはよく言ったものだなーと感心しました。
ロイヤルブルー
さらにその上のグレードに、ロイヤルブルーがあります。
インクブルーよりもずっと明るくて照りも良く、絵具の青に近い色合いです。
ミャンマー産のものが有名ですが、スリランカ産も綺麗なものは沢山あります。
ロイヤルブルーにも様々な色相がありますが、高品質なものは感動的に美しいのですよ。
コンフラワーブルー
そして最高級の色がコーンフラワーブルーです。
カシミール産の幻のコーンフラワーブルーまでとはいきませんが、スリランカ産のコーンフラワーブルーやそれに近いものも、かなり素晴らしく美しい色合いです。
ロイヤルブルーとは明らかに違う、ベルベットのように滑らかで深みがあって、内側から発光しているかのような、何とも言えない魅力があります。
私はスリランカの宝石店巡りが趣味で、どこに行っても「この店でいちばん高品質のサファイアを見せて」とお願いしていました。
ある時、最高級のコーンフラワーブルーのサファイアを見せてもらう機会に恵まれました。
社長さんしか入れない奥の部屋に通されて、そのまた奥の部屋にある金庫の中から取り出されたサファイアの色と輝きは、一生忘れることができません!
パパラチアサファイア
※画像のパパラチアサファイアは産地不明です。
蓮の花の色といわれているのが、パパラチアサファイアです。
ピンクとオレンジの中間にある色はとても可愛らしく、優美な女性らしさを感じる宝石だと思います。
私はほんの少しオレンジ寄りのパパラチアが大好きで、理想の色のパパラチアをロンドンの博物館で見つけた時は嬉しくて、しばらく離れることができませんでした。
スリランカのコロンボにある仏教寺院の宝物殿にも、素晴らしいパパラチアが展示されていましたよ。
スリランカでは仏教寺院に蓮の花が奉納されるのですが、その優しい色合いは確かにパパラチアの色のようだなぁ、と実感したものです。
パパラチアはとても人気が高いのですが鑑別が難しく、パパラチアだと思っていたのにピンクサファイアやオレンジサファイアに分類された、ということもよくあるそうです。
購入する際は、信頼のおける鑑別機関の鑑定書かソーティングが付いたものが安心ですね。
カラーチェンジサファイア
光源によって色が変化するものをカラーチェンジサファイアといいます。
私も、スリランカ産のカラーチェンジサファイアのリングを持ってますよ。
通常は明るめのインクブルーで、光が当たると紫に変化します。
けっこうしっかりと色が変わるのでお気に入りです。
カラーチェンジサファイアのリングをつけて、行く場所によって青になったり紫になったりする様子を観察するのは、とても楽しいですよ。
グリーンサファイア
グリーンのサファイアも人気があります。
イエローグリーンからグリーン、そしてブルー寄りのものまで、様々な色相が揃っているので、お好みのグリーンを探す楽しみがありますね。
色むらが無く鮮やかなグリーンのサファイアは滅多になく、希少価値があるので宝石コレクターが探し求めているそうですよ。
落ち着いた感じの、シックな色のグリーンサファイアが多いという印象です。
グリーン系宝石の王様的存在であるエメラルドも良いですが、傷つきやすいので注意が必要。
エメラルドよりも硬度の高いグリーンサファイアのほうが、普段使いのジュエリーとしては安心かもしれませんね。
スターサファイア
※画像のスターサファイアは産地不明です。
まるいカボションカットのサファイアに光を当てると、6条の光が浮かぶものを、スターサファイアといいます。
光を当てることでスターが浮き上がることを星彩効果(アステリズム)といい、ルチルなどの内包物によって引き起こされる神秘的な現象なのです。
スターの中心が石の中央にあり、6条の光が全面にはっきりと走るものが良いでしょう。
スターは不透明な石に強く出るのですが、例えばブルースターサファイアの場合は濃いブルーで透明度のあるものほど価値が高くなるそうです。
スターサファイアにも様々な色がありますが、赤いものはスタールビーに分類されます。
スリランカではブルースターサファイアだけではなく、ピンクスターサファイアもよく見かけましたよ。
加熱処理の有無について
加熱処理は、多くの宝石に昔から行われています。
自然が長い長い年月をかけ、熱を加えて宝石を変化させるというプロセスを人間が短期間で行っているのです。
魚に例えれば、天然ものと養殖ものの違い、に近いのでしょうか。
目の前の宝石に加熱処理がされているかどうか気になる気持ち分かります。
私は宝石店などで宝石を見せてもらう時は必ず「加熱処理してる?」「着色などの処理をしている?」と尋ねます。
何度も行ってお友達になったスリランカの宝石店の店員さんなどは、とても正直に教えてくれるので頼りにしていました。
では、加熱処理されたサファイアにはどんな特徴があるのか見てみましょう。
加熱処理されたサファイアの特徴
サファイアはとても高温で加熱処理されるので、内部に入っていたルチルやアパタイト、ヘマタイトなどが解けたり破裂されたりするのだそうです。
それが、白い雪玉や円盤のような独特のインクルージョンとなって残ることがあり、加熱処理の有無を見分けることにつながるのだとか。
ルチルによるシルクインクルージョンは、加熱処理により溶けてなくなってしまいます。
また、1977年ごろ、加熱サファイアの歴史に大きな影響を与える出来事がありました。
サファイア採掘の過程で捨てられていた「ギウダ」と呼ばれる白い結晶があるのですが、その中には加熱処理によって美しいブルーサファイアに生まれ変わるものがある、ということが判明したのです。
白や淡い色のギウダの中には、ブルーサファイアと同じくチタンや鉄が含まれているものがあり、その元素が加熱処理されることにより青く発色するのだそうです。
大量のギウダがタイに送られて、加熱処理と研磨がされているそう。
でも、スリランカ産ギウダにも限りがあるので、最近は供給が少なくなってきているとのことです。
スリランカ産サファイアの価格
スリランカ産サファイアは、どのくらいの価格なのでしょうか。
私の経験では、品質やカラット数によって大きく値段が変わり、小さくて低品質のものはスリランカでは数百円程度で買えることもありました。
カボションカットのブルーサファイアは、スターサファイアである以外は、透明度の無い低品質の石が使われており、けっこう安価だったのを覚えています。
リングを買った時などのおまけで「ピアス作ったらいいよ」とプレゼントされることもありましたよ。
品質が高くて大きいサファイアは、それこそ青天井でした。とても手が出るものではありませんね・・・。
スターサファイア(ブルー)はというと、こちらも低品質のものであれば数千円のものもあれば、数十万円のものもあれば、トップクォリティのものは1千万円以上するものもあるそうですよ。
サファイアは品質によって、大きく価格が変わることがわかりましたね。
私の場合は、馴染みの宝石店ができたことで良心的な値段で買うことができたのですが、観光地のお土産物屋さんなどでは注意が必要でしょう。
高品質で大きいサファイアを手に入れたいものです!
最後に
スリランカ産サファイアの世界をご紹介しましたが、いかがでしたか?
自然豊かなスリランカの、澄んだ空や深い海の色が再現されたようなブルーサファイア。
満月になるとスリランカの寺院に奉納される、美しい蓮の花の色に例えられるパパラチア。
満天の星空を思わせるスターサファイアや、絵具箱のように色とりどりのファンシーカラーサファイア。
サファイアの世界は広大で、なおかつ奥も深くて、ますますファンになりました。
カラッツ編集部 監修