白く凛とした輝きを放つプラチナ。
ジュエリーの地金としても馴染み深く、日本では婚約指輪や結婚指輪の素材としても人気がありますね。
ダイヤモンドとプラチナのリングがブライダルジュエリーの広告に大きく取り上げられていることも多く、小さな頃から憧れを抱いているという方もいるのではないでしょうか。
そんなプラチナですが、実は工業用素材としての方が重要な役割を担っていることご存知でしょうか。
プラチナの魅力を探るため、基本情報、産地、用途、歴史、資産価値などについて調べてみましたのでご紹介しましょう。
目次
プラチナとは

地球上で最も貴重な金属の一つとして知られるプラチナ。
しかし1500年代、コロンビアでスペイン人によって発見された当初は、不純な銀鉱石だと勘違いされ「platina del Pinto(ピント川のちっぽけな銀)」と呼ばれ軽視されていたのだそうです。
今からはちょっと想像できないお話ですよね!
そしてこの、「ちっぽけな銀」という意味のplatinaが、プラチナの語源といわれています。
実は少し皮肉感が込められたネーミングだったのですね。
鉱物としての基本情報
英名 | Platinum(プラチナ) |
和名 | 白金(はっきん) |
鉱物名 | プラチナ |
分類 | 元素鉱物 |
結晶系 | 等軸晶系 |
化学組成 | Pt |
モース硬度 | 4 − 4.5 |
比重 | 14 – 21.5 |
光沢 | 金属光沢 |
性質
プラチナには特徴的な性質がいくつもあります。
まず第一に、融点が高いため熱に強いということ。
優れた耐熱性から工業用部品にも多く用いられます。
そして比重が大きいこと。
17世紀には「重くて火にも溶けない白い金」といわれていたそうですよ。
とてもインパクトのある表現だと思いませんか!?
科学的な安定性が高く、王水以外の酸やアルカリにも溶けないこと、大気中や高温でも変色しないこともプラチナが貴重な金属といわれる所以です。
さらに特筆すべきは、展性や延性に優れていることに加え、粘り強い性質をもつということ。

その性質がゆえに、小さい爪でも石をしっかりと留めることができ、様々な宝石をセッティングしたり、繊細なデザインを施すことを可能にしました。
ジュエリーに最適な金属といわれるようになった理由はここにあるのですね!
産地
プラチナの主な産地は南アフリカ共和国、ロシア、カナダ、ジンバブエ、アメリカ、コロンビアなどです。
一番の産出国は南アフリカ共和国です。
日本でも北海道の一部の河川で川砂中から見つかったことがあるそうですよ。
砂白金のなかからわずかに見つかった程度のようですが、採掘のための企業化が計画されたこともあったとか。
これまでに世界で採掘されたプラチナの総量は約7000トンといわれます。
数字だけ見るとすごくたくさん採れているように感じますが、世界中にあるプラチナを集めてもゴールド(金)の約1/30程度にしかならないそうです。
そう聞くとやはり、非常に希少であることが分かりますね。
原石の形

産出されるプラチナの多くは粒状で、鉄、パラジウム、イリジウム、ロジウムなどほかの金属を微量に含んだ状態で見つかります。
ごく稀に、ナゲットと呼ばれる塊で出ることもあるといいます。
プラチナが結晶の状態で見つかる時は立方体の形をしていることが多いそうですよ。
下の写真のようにコロコロとした見た目のものは、豆粒みたいで何だかちょっと可愛い印象を受けますね。

しかしこういったものが見つかることは少なく、貴重なのだそうです。
博物館とかで見られたら良いですね。
プラチナの色。ホワイトゴールドとは何が違う?

画像:左-プラチナ 右-ホワイトゴールド
和名で「白金(はっきん)」と呼ばれるように、プラチナの色はホワイト系ですが、白色というよりは銀色といった感じで、渋みのある独特の風合いがあるように思います。
個人的には、落ち着いていて宝石が映える色といった印象がありますね。
プラチナと良く似た色合いの金属として馴染み深いものは、ホワイトゴールドやシルバーなどでしょうか。
特にホワイトゴールドとの違いが分からないという話をよく聞きますので、この2つの違いについてお話しましょう。
プラチナとホワイトゴールドの違い
1. 色

画像:左-プラチナ 右-ホワイトゴールド
プラチナとホワイトゴールドは、まず色が違います。
これを聞くと、「私の持っているジュエリーはプラチナもホワイトゴールドも同じ色に見える!」と思われる方もいるかもしれませんね。
実は本来のホワイトゴールドは少し黄色味がかった色をしています。
しかしジュエリーに仕立てる際、ロジウムメッキを施すことが一般的で、それ故プラチナと似たような色合いに見えるようになるのです。
ただロジウムメッキは、上からコーティングをしているような状態なので、長年使用したり、ぶつけたりこすったりすると剥がれてしまうことも。
ホワイトゴールドのジュエリーが、時間の経過とともに少し黄色っぽく変色したように見えるのは、ロジウムメッキが剥がれ、本来の色が出てきたからなのですね。
という事情から、ホワイトゴールドのジュエリーは、ロジウムメッキを掛け直すなどのメンテナンスが必要なケースがあります。
それに比べプラチナは、元々白い光沢感のある艷やかな色合いをしており、メッキ加工が施されることはホワイトゴールドほど一般的ではありません。(※)
空気中の物質と化学反応を起こすこともないため、使い続けても変色しにくいというのがプラチナの特徴であり、ホワイトゴールドとの違いのひとつです。
※輝きを増すために、プラチナ製品にロジウムメッキ加工を施す場合もあります。
2.比重
プラチナはゴールドよりも比重が大きいという特徴もあります。
そのため、この2つで同じデザインのジュエリーを作った場合、見た目は似ていても重さが変わります。
実は、ジュエリー制作において、地金の比重は、素材選びという点でとても重要なポイントのひとつです。
例えば、ブローチのように洋服に直接付けるものは、重くなり過ぎてしまうと、服を伸ばしてしまったり生地を傷めてしまう恐れがあるため、なるべく軽くなるように作らなくてはいけません。
となると、プラチナよりも比重の小さいゴールドの方が適しているということになり、敢えてホワイトゴールドを使用するなんてこともあるのです。
3. 価値
プラチナとゴールドは価値が異なるため、価格差が生じる場合があります。
特にインゴッドとして売買する場合は、その差を大きく感じるのではないでしょうか。
ジュエリーの場合も、売る際は、その日の日次価格と純度、g数によって地金の価格が決まるため、2つの価格差が大きいほど、売値にも違いが出ます。
つまり、1gでの価格がそれぞれ違うため、同じ重さであっても、売値も変わるということですね。
プラチナの用途

前述したように、プラチナにはさまざまな特徴があり、その特徴を活かしいろいろな用途に用いられています。
どのように使われているか、ジュエリー用と工業用に分けて、見ていきましょう。
ジュエリー素材として

発見当初、使い道のない金属と勘違いされていたプラチナも、現在ではジュエリー素材として最適な金属とまでいわれるようになりました。
プラチナの粘り気があり、化学的に極めて安定していて腐食しにくいという性質がジュエリーの地金にとても適しているんですね。
なぜ粘り気があると良いかというと、先にもご紹介したように、その方がしっかりと石を留めることができるからです。
昔、仕事でジュエリー工房の見学をさせて頂いた際、糸鋸でプラチナを切っている様子を目にしたことがあるのですが、ねっちりとしていて、まるで硬い粘土のようだったのが強く印象に残っています。
しかし純プラチナは、ジュエリーの素材としては柔らか過ぎ、耐久性に欠けることから、ジュエリーに使用するときは一般的に別の金属を割金(わりがね)として混ぜて強度を上げます。
Pt900(純度90%)やPt950(純度95%)が一般的ですが、チェーンなどは切れにくいように、より強度が高いPt850(純度85%)を使うことが多いです。

ちなみに、プラチナの割金として使われることが多いのは、パラジウム、ルテニウム、イリジウムなど、同じ白金族の金属たちです。
工業用として

日本ではジュエリーのイメージが強いプラチナですが、実は、産出量の約6割が工業用として使用されているといいます。
世界的に見ると工業用素材としての方が有名なのだそうですよ。
例えば、石油精製のための触媒に用いられたり、白金化合物が薬品に使われることもあります。
工業用に使われているプラチナの約4割は自動車関連部品といわれ、エンジンの有毒ガスを浄化する触媒としても活躍しているのだそうです。
美しい貴金属というイメージのプラチナが半導体や薬など、全く違う形で使われているなんて、驚きですね。
普段何気なく使っている物の中にも実はプラチナが隠れているかもしれませんね。
プラチナの歴史

最も古いものとして、紀元前1200年頃に作られたと見られる古代エジプトのお墓からプラチナの遺物が見つかっています。
ルーブル博物館が所蔵している「テーベの小箱」と呼ばれる化粧入れも有名ですね。
これは紀元前700年頃のもので、中の銀象嵌の中にプラチナが埋め込まれています。
ただ、プラチナが貴金属として認識されたのは17世紀、加工法の基礎が出来上がったのは18世紀後半頃といわれていますので、いずれの場合も作られた当時はプラチナという認識はなかったのかもしれないそうです。
ちなみに、プラチナがジュエリー素材として優れた金属であることを最初に見出し、世に広く知らしめたのが誰かご存知でしょうか。
フランスの老舗ジュエリーブランドであるカルティエの3代目、ルイ・カルティエで、19世紀後半~20世紀前半頃といわれています。
アンティークジュエリーの時代分けでいうと、アールヌーボー(1890年~1910年)と、エドワーディアン(1901年~1915年)の時期になりますね。
ジュエリー素材としてのプラチナのポテンシャルの高さに気づいたルイ・カルティエは、ダイヤモンドとの相性の良さにも着目し、「ガーランド様式」と呼ばれるスタイルを確立。
様々なプラチナジュエリーを次々と生み出し、世間にセンセーショナルな風を吹かせたのです。
プラチナが重要視される理由

プラチナは埋蔵量が金よりも圧倒的に少なく、極めて希少性が高いといわれる金属です。
工業用やジュエリーの地金として広く活用されるだけでなく、資産としての価値もあります。
金と同じように、世界水準で日々売買されており、経済や世界情勢などによって大きく価格変動が起きることもあります。
ジュエリー用素材としては、先にご紹介した粘り気があり腐食しにくいという性質に加え、カラーレスのダイヤモンドを引き立てる色合いということも大きいのではないかと思います。
日本では婚約指輪や結婚指輪にプラチナを選ばれる方も多いですよね。

特に結婚指輪は付けっぱなしにされる方が多く、洋服や年齢、性別を選ばず付けられるのも好まれる理由の一つかもしれません。
希少性が高く、資産性もあり、かつ、活用用途も広いプラチナは、資源として非常に貴重であり、それ故に重要視されているのではないかと思います。
プラチナの資産価値

金と同じようにプラチナを資産として、インゴッド(延べ棒)などの形で持つ方もいます。
ですが金ほどインフレリスクに強いとは言えないプラチナは、景気の影響を受けて株式に近い値動きをする傾向があるといいます。
価値、相場、資産価値について調べてみました。
プラチナの価値はどうやって決まる?
プラチナの価値は世界情勢や経済の状態によって変動します。
先にご紹介したように、プラチナは約6割が工業用に使用され、そのうちの約4割が自動車関連部品などに使われています。
そのため車などの需要が増えると、プラチナの需要も増え価格が上がります。
特にプラチナは、産出量が少なく市場規模が小さいので、需要動向や投資資金の動きに反応しやすいといわれています。
リーマンショックでの大幅値下げなどは当時かなり話題となりましたね。
他にもプラチナの産出の約7割が南アフリカ共和国であることから、南アフリカ共和国の社会情勢などに影響を受けることもあります。
例えば現地でのストライキや電力不足などが原因で生産停止に陥り、価格が急騰したこともあったようですよ。
プラチナの相場を調べるには?
プラチナの相場は日によって変動するため、正確な情報を調べるには当日のデータを確認しましょう。
田中貴金属工業などプラチナを扱う会社や買取専門店などのホームページでその日の相場を確認することが出来ますよ。
カラオク(KARATZプロオークション)でも日々更新していますのでチェックしてみて下さいね。
会社によって様々な情報を提供していますから、私も定期的にチェックしています。
またプラチナの相場はドル建てが基本です。
円安ではプラチナの価格も高くなりやすいので、売買する時は為替レートにも注意しましょう。
プラチナの資産価値はどれくらい?
2025年8月現在のプラチナ相場は、6,000円台後半~7,000円/g位で日々推移しています。
円安ということもあり、2021年からプラチナの円価格が高くなっていますね。
先ほどもお伝えしたとおり、プラチナは市場が小さく値動きが大きい貴金属です。
2008年は最高小売価格が7,589円まで値上がりしましたが、その後リーマンショックで大幅に値下がりし最低小売価格が2000円台になったこともありました。
金よりも高額で取引されていた時代もありましたが、現在は金価格を大きく下回っています。
プラチナの売買について

プラチナの売買はジュエリー、コイン、インゴッド(延べ棒)などの現物を購入する方法と、投資信託や積立などで購入する方法があります。
今回はプラチナの現物を購入する方法についてご紹介しますね。
プラチナはどこで買える?
プラチナのジュエリーやコインはジュエリーショップで購入が可能です。
他にも買取専門店、質屋でもリユース商品が手に入ります。
最近ではフリマアプリで購入する人も増えてきたように思います。
インゴッド(延べ棒)は田中貴金属などの専門店で買えますよ。
売りたいときはどうする?
プラチナを売りたい場合は買取専門店や質屋で売ることができます。
お店によって手数料や査定基準が決まっているため、同じものを売るのでも査定額が違うこともあります。
出来るだけ高く売りたいのであれば、いろんなお店で査定して買取価格を比較すると良いですよ。
プラチナは日によって相場が変わるので、お店を比べたい場合は同じ日に査定してもらってくださいね。
最後に

プラチナの特徴や価値についてお伝えしました。
通常のジュエリーはもちろん、ブライダルジュエリーの素材としても人気があるプラチナ。
他にも生産量の約6割がディーゼル車の排ガス触媒などの工業製品にも使用されていて、私たちにとって必要不可欠なものであることが分かりましたね。
17世紀になるまでプラチナの存在が広く知られていなかったことには驚きましたが、歴史は浅くても世界の宝飾文化にしっかりと根付いているプラチナはやはり魅力的な貴金属なんだなと改めて思いました。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社 ほか