まさに宝石デザイナー!世界的に人気のファンタジーカット
宝石にはたくさんのカット技法がありますが、その中でも「ファンタジーカット」と呼ばれるカットがあることご存知ですか?
日本ではまだあまり馴染みがないかもしれませんが、世界的には今大注目されていて、実際、世界最大の宝石展の一つ、2月に行われた「2019ツーソンミネラルフェア」でも、前年よりファンタジーカットのルース(裸石)が増えていたとか。
見ると、
「こんなに美しいカットがあったなんて…!」
と思わずうっとりしてしまいます。
できることならいつまでも眺めていたい、そんな美しいファンタジーカットの世界をのぞいてみませんか?
ファンタジーカットとは?
「ファンタジーカット」と聞いて、早とちりな筆者は「ファンシーカットのことかな?」と一瞬思ってしまいましたが、それはラウンドブリリアントカット以外のダイヤモンドのカット技法の総称。
ファンタジーカットとは、宝石の裏側に凹面をほどこし、鏡面効果で光を取り入れたカットのことです。
「ファンタジー」は「空想」を意味するドイツ語のphantasieが語源。
ファンタージーカットの重要なアーティストのひとりにBernd Munsteiner(ベルント・ムンシュタイナー)がいます。
ファンタジーカットの登場
画像出典:GIA |
中世・ルネサンス期から行われている「宝石彫刻」は、宝石の加工・研磨・彫刻をする職人の技です。
宝石のカットは何世紀にもわたり、原石の重量をできるだけ保ちつつ理想的な形に整えていく作業でした。
20世紀、その宝石彫刻の世界に新しい風を吹かせたのが、ベルント・ムンシュタイナーです。
宝石の裏側に凹面を入れたのは、ベルント・ムンシュタイナーが初めてでした。
宝石の天然の美しさを開放する比率を編み出し、石の前面に壮厳な光効果を生み出すことに成功しました。
ベルント・ムンシュタイナー
画像出典:GIA |
ファンタジーカットの生みの親、ベルント・ムンシュタイナーは、1943年にドイツに生まれました。
「マイスター」を超え、人間国宝級の「クンツストラー」という最高峰の称号を持っています。
上の画像は、その代表作の一つで、ワシントンDCスミソニアン国立自然史博物館に収蔵される「ドンペドロ」(10.363ct のアクアマリンのオブジェ)。
美しさも大きさも別格ですよね。
ベルント・ムンシュタイナーが発明した「ムンシュタイナーカット」は世界中の愛好家を魅了し続け、現在工房は息子のトム・ムンシュタイナーに引き継がれています。
美しすぎるファンタジーカットの世界
原石が大きければ大きいほど、それだけ作品に加工をほどこすことができるので、宝石のサイズは素材選びの重要なポイントとなります。
稀に四大貴石(ダイヤモンド、ルビー、エメラルド、サファイア)にファンタジーカットを加工する人もいますが、大きなサイズが入手困難なため、大体はアクアマリンやクォーツなど、大きな面をとることができる宝石が選ばれることが多いようです。
細かなカットを組み合わせることで、最高の輝きを発揮する天然石。
では美しすぎるファンタジーカットの作品を幾つかご紹介しましょう。
美しすぎる!パライバトルマリンの真骨頂!?
こちらはなんと、45ctのパライバトルマリンにファンタジーカットをほどこした作品。
ちなみに一般的なカットのパライバトルマリンをご覧になったことはありますか?
そちらも十分美しいのですが、こちらのファンタージーカットのパライバトルマリンは「同じ石でもこんなに違うなんて!」と思わせてくれる程のインパクトがあると思いませんか?
ところで気になるお値段は…?
豪邸が買えるぐらいでしょうか!?
今年注目を集める作品
次の2点は、2019年カッティングアワードに選ばれた作品です。
一つ目はJohn Dyer作オレゴンサンストーンです。
John Dyerは本場アメリカでもっとも有名な宝石カッター。2002年以来54のカッティング賞を受賞し、14回優勝しています。
二つ目は、Christopher Wolfsberg作のオレゴンサンストーンです。
世界最高級のジュエリーとカラージェムストーンのコンベンション「AGTA」で複数回「カッティングエッジ賞」を受賞しているChristopher Wolfsbergの作品は、世界中の宝石バイヤー、コレクターから特に人気があります。
最後は、国内外で大人気!(株)シミズ貴石さんの甲州貴石切子です。
甲州貴石切子に沢山のご反応をいただき誠にありがとうございます。
固定ツイートに展示会出展情報を掲載させていただきました。切子も販売いたしますので、皆さまぜひお出かけください。 pic.twitter.com/IxOSWT2E5C
— 株式会社シミズ貴石 (@shimizu_kiseki) August 18, 2018
切子とは、立方体のそれぞれの角を切り落とした形のことで、江戸切子や薩摩切子などのガラスの伝統工芸が有名ですね。
江戸切子を宝石の中に閉じ込めたような美しさの甲州貴石切子は、上部のクラウン部分がファセットカット、下部が切子模様という斬新なカット。
切子模様は数々のパターンを、それぞれの宝石がもっとも美しく映えるよう組み合わせているそうです。
画像だけではお伝えしきれないこの美しさ!
きっとどこから見ても綺麗なのでしょうね。
まとめ
息をのむほど美しいファンタジーカットの宝石をご紹介しました。
画像で見てもこれだけ美しいのですから、実物はどんなに美しいのでしょう!?
筆者は学生時代に宝石デザインを学んでいたのですが、人からは「宝石のデザインって、石のカットをデザインするの?」と聞かれたものです。
しかし実際は、いわゆる「宝石(ジュエリー)デザイン」というのは指輪やネックレスなどのアイテムのデザインであって、宝石そのもののデザインをするのではないのですね。
ですが、ファンタジーカットの職人はまさに「宝石デザイナー」。
これからもどんどん新しいカットがお目見えするのでしょうか。楽しみです。
そしていつかこの目で実際に見られる日が来たら良いな、と思います☆
カラッツ編集部 監修