連日多くの人で賑わっている特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」(6月19日まで国立科学博物館、7月9日~9月19日名古屋市科学館にて開催予定。以下、特別展「宝石」)。
このイベントとコラボした形で発売された「起源が分かる 宝石大全」を取材させて頂いた際、著者の一人で、特別展「宝石」の責任者でもある宮脇律郎氏にイベント開催への道のりについてもお話を伺うことができました。
特別展「宝石」への熱い想いについて、色々語って頂きましたので、ご紹介します!
目次
特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」の開催のきっかけ
「実は、一番最初は諏訪さんからなんです。随分昔におしゃって下さって。
元々、国立科学博物館(以下、科博)や私と諏訪さんの関係を振り返ってみると、昔、科博の常設展示に宝石の展示コーナーがあり、その中に諏訪貿易の先代の会長が寄贈して下さった翡翠(ひすい)があったんです。今回の特別展「宝石」でも展示していた、通称「青とうがらし」と呼ばれる見事な翡翠で。
その宝石がもつ素晴らしさをより多くの方に見てもらいたいということで寄贈頂いて、ダイヤモンドや他の宝石と共に常設展示していたのですが、今の地球館を建てるために、展示があった建物を取り壊すことになって。結果的に常設展示から宝石の展示コーナーをなくすことになり、一旦収蔵庫に収められ、次の展示の見込みも立たない状況になってしまって、申し訳のない気持ちでいたのです。」
特別展「宝石」の原点となったダイヤモンド展
「そんな中、2000年に、ニューヨークのアメリカ自然史博物館からダイヤモンド展というものが日本にやって来ることになりました。
これは元々、ニューヨークから始まってアメリカ国内を巡回していたもので、国外に持ち出して世界的に展開しましょうとなった時、一番最初に東京に持って来ることとなり、展示会場として科博が選ばれました。それがタイミング的に、昔その、宝石の常設展示をやっていた建物を壊した後に建てられた地球館のこけら落としのような形になったのです。
そのダイヤモンド展というのが、ダイヤモンドに特化した、それはもう素晴らしい展示会でして。
私は常々、自然物の石を見て頂くのに、ただ単に石だけを展示しても、多くの方のモチベーションを上げるのは難しいのではないかと思っていました。
しかし、宝石を入り口にすることで、入りやすさが変わるため、宝石をテーマにした展示会を、と思っていたところにダイヤモンド展の話があり、実施しました。」
ダイヤモンド展に続く展示会
「ダイヤモンド展の後、2004年に翡翠展を、2008年にゴールド展(※正式には「日本・コロンビア外交関係樹立100周年記念 黄金の国ジパングとエル・ドラード展」)を開催し、それぞれ反響もありました。
そしてその次に、また何かやりたいと思って悩んでいた時に、諏訪さんから『次、宝石、何かやりませんか』とお声掛け頂いて。
ただ、単独で特別展が開催できるような宝石はなかなか思いつかなくて、『じゃあ、いっそ宝石全般でやってみませんか』ということになったんです。
その後、協力して下さるスポンサー企業を探して、TBSさんを始め何社か見つかり、このプロジェクトが開始しました。
一緒にやって頂くメンバーとして、宝石の専門家である諏訪さん、国立科学博物館の職員である門馬さん、過去に名古屋市科学館で学芸員として働いていたことのある西本先生にお声がけし、この4名を中心に進めていくこととなったのです。」
プロジェクト開始から開催までの道のり
「通常、特別展を開催する際、4年以上の歳月をかけて準備するのですが、今回結構時間が掛かって。
というのも、最初は、スミソニアン博物館、ニューヨーク自然史博物館、カリフォルニア科学センターなどにある、カブトムシ大のルースを借りたり、アメリカの富豪が持っている個人コレクションの原石を借りてきて、素晴らしいものにしようと色々話を進めていたのですが、そんななか、新型コロナウィルスが蔓延して。。
当初は昨年、つまり2021年3月から開催する予定だったのですが、開催も1年延期になりました。
ただ何より、一番の計算違いは、通常、標本などと一緒にクーリエと呼ばれる学芸員がついてくるのですが、彼らが入国できなかったこと。そのため、海外から宝石や標本を取り寄せることを諦めざるを得ない事態になってしまって。それで悩んでいた時に、諏訪さんが、日本彩珠宝石研究所の飯田さんをご紹介下さって、飯田さんのコレクションをお借りすることになったのです。
それを機に、岐阜県の瑞浪鉱物展示館を始めとする、国内にある博物館の標本を借りる交渉に入りました。
ただ、アメリカにあるようなカブトムシ大のルースは国内にはあまりなく、それより小さいサイズのものが主だったので、お客さんがどうしたら喜んでくれるのかを色々考えて。予定していた宝石の種類を網羅できる目処がたった頃、次は目玉になるような、例えば、スミソニアン博物館のホープダイヤのように有名宝石とか、それに匹敵するような何かを一つでも持って来れないかと色々考えたのですが、これも、なかなか難しくて。
その時に、やっぱり諏訪さんが、アルビオンアートさんとコレクションを出して頂く交渉を成立させて下さって。アルビオンアートさんが本当に潤沢に凄いものを色々出してくださって。
ようやく、宝石の特別展という名前に恥じないだけのコレクションを集める目処ができたことにホッとしました。」
その他の大きな協力者
「あと、GIAさんとヴァン クリーフ&アーペルさんの協力を得られたことも大きかったです。どちらも日本に支社があるため、本国から送ってもらった展示品を日本支社の方が空港で受け取って、その後の対応をして下さったためクーリエが一緒に来日しなくても管理体制を整えることができました。
そういった皆さんのご協力があったからこそ、GIAさんのジャンボジェムやヴァン クリーフ&アーペルさんのジュエリーの展示が叶い、大変有り難く思っています。」
原石が生まれるところからストーリー仕立ての構成とした理由
「科学博物館で開催する以上、『宝石は地球が生み出した自然物である』というところを知って頂くところから始めないといけない、というのは絶対ミッションのようなもので。
皆さん、宝石がどういうものかのイメージはあるけれど、どうやって出来上がるのかはよく分かっていない方も多い気がするんです。
例えばアニメなどで、鉱山に行ったらラウンドブリリアントカットをされた宝石が落ちていて、それを拾うっていうシーンを、子どもの時に見たら、そういうものだと思い込んでしまいかねない。
ところが、実際には違う訳です。鉱山にカットされた宝石が落ちていることもなければ、そもそも宝石は鉱山の穴のあるような場所でできる訳ではなく、もっと地球の深い、人類が到達できないような、そういう条件下でできる訳で。そういう話をどうしてもお伝えしたいと。
そこから始まらないと、なぜこんな綺麗なものができるかっていう始まりがないので。それは誰が言い出したというよりも、科博で宝石の展示会をやる上で当たり前の流れでした。
特に地学研究部という、いわゆる、自然科学の中でも、地球の活動というのをターゲットにしてる部門が、それを担当させて頂いたので。」
一番苦労した点
「新型コロナウィルスの蔓延により、海外の博物館や個人コレクターの方から借りられなくなったことから、国内で色々探したのですが、一度良いものを見ているとどうしても基準が上がってしまって、納得のいくものを探すのに苦労しました。門馬先生に各地に行ってもらって、ギリギリまで色々探してもらいました。
色々計算が狂ってしまった結果、「宝石大全」の出版にも影響し、出版に携わって下さった方々にも苦労を掛けました。」
特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」への思い
「私の専門は鉱物学なのですが、鉱物について紹介するために、石だけを展示しても、多くの方に足を運んでもらうイベントにすることは難しいと感じています。
特に、日本の場合、自然物に対する考え方が、欧米などと少し違い、花鳥風月で表される、気象、植物、動物、天文が自然物であって、下に踏みしめている石というのは、どちらかというと道具であり、資源であったりする認識が強いと思うんです。
しかし、例えば、環境を考える時に、山に降った雨が地面の石を溶かし込み、それが植物に栄養を与え、あるいは、海に流れて微生物に栄養を与え、プランクトンを育てる。色々なところで、石は環境の一番根っこにあるもので、そういうところに目を向けて欲しくても、ストレートに出したところで、なかなか受け入れてもらえないことは分かっていて。
そういう点では、宝石っていうのは入り口としては非常に良いんです。多くの方が宝石がどういう物か何となくイメージがわきますし、入りやすいテーマだと思います。
地球が生み出す石について興味を持ってもらうために宝石を軸に特別展を開くことは意味があることだと思っています。
2000年のダイヤモンド展、2004年の翡翠展、2008年のゴールド展(※正式には「日本・コロンビア外交関係樹立100周年記念 黄金の国ジパングとエル・ドラード展」)に続き、今回の特別展「宝石」はその集大成ともいえるイベントになったように思います。」
最後に
特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」の監修者のお一人である宮脇律郎氏のお話をご紹介しました。
私自身、取材も含め計3回、このイベントに足を運びましたが、何回行っても見たりないと思う程の充実さで、数多くの展示物と詳細に説明されたパネル展示など、至るところになされた創意工夫に、何時間でも居続けられると思う空間でした。
6月19日までは東京・上野の国立科学博物館で、7月9日~9月19日は愛知の名古屋市科学館で開催されます。
これから行かれる方は、宮脇先生を始めとした多くの方々の熱い思いの中で作られた素晴らしい展示の数々をぜひご堪能下さい。
カラッツ編集部 監修