Photo by : hmzphotostory / Shutterstock.com
宝石の中には希少な上人気が高いことから高価になるものも多くあります。
そんな宝石が少しばかり手ごろな値段で売られているのを見つけたら、あなたはどうしますか?
「ずっと欲しかったあの宝石がこの値段!今すぐ欲しい!」
となる前に、ちょっと待ってください。
その宝石は本物でしょうか?
もしかしたら価値を偽って販売されているかもしれません。
出来るだけ賢い宝石選びをするために、偽物の種類や見分け方などについてお伝えしていきたいと思います。
目次
宝石の偽物について
近年、宝石の原石やルース、ジュエリーなどは店舗やオンラインなど、様々な場所で購入することが出来ます。
しかし、中には事実を偽って販売されている、いわゆる偽物が多く流通していることも確かです。
天然石には限りがあり、中には希少性の高さから高価になるものも多いです。
そのため、もっと気軽に楽しめるよう、天然石に似せたものを安価な素材で大量生産し、代用品やファッション用として生産されたのが始まりだったかもしれません。
合成石や人工処理を施して色や見た目を変えた天然石も同様です。
勿論、これら自体が悪い訳ではありませんので、消費者に誤解を与えないようきちんと表記して販売されていれば問題ありません。
購入するかどうかは消費者次第ですから、納得して購入し、天然石とは異なる魅力を楽しめば良いと思います。
しかしながら、故意的に事実を偽り、実価値より高値で販売している場合は明らかに悪徳行為ですよね。
中には、業者が大量購入したロットの中にガラスや別石が混ざっており、知らずに販売してしまうケースもあるといいますが、消費者の立場からいえばどちらも偽物を掴まされたことに変わりありません。
高価なものを購入する場合は、信頼のおける鑑別機関の鑑別書が付いたものを購入することも一つの予防策ですが、偽物についての知識を身につけておくこともまた大切だと思います。
どんなものが偽物として売られているの?
偽物としてよく見かけるのは、合成石、人造石、模造石、張り合わせ、人工処理で色を改変したもの、見た目がよく似た別の天然石などです。
合成石とは、宝石をラボで人工的に成長させたものです。
化学組成と結晶構造が天然石と同じで、色や光沢、物理・化学的特性なども天然石と同じに作られています。
人造石とは、キュービックジルコニアやYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、GGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)といった人工的に作られた宝石です。
天然にはない宝石ですが、独自の物理・化学的特性や内部構造をもっており、天然石に似た輝きを放ちます。
模造石とは、ガラスやプラスチック素材などで、宝石に似せて作られたものです。
張り合わせとは、異素材を張り合わせたダブレットやトリプレットのことを指します。
偽物として売られている宝石たち
それでは、よく見かける偽物宝石について、例を出して具体的に紹介していきたいと思います。
合成スピネル
画像:グリーンの合成スピネル
合成石としてよく見かけるものの一つに合成スピネルがあります。
カラーレスやブルー、グリーンなどが多く出回っているようです。
これらを天然スピネルと偽って販売されるだけではなく、アクアマリンや合成アレキサンドライトとして出回ることも多いようです。
合成スピネルには大きく2つの製造法がありますので、簡単にご説明しましょう。
ベルヌイ合成スピネル(火炎法)
フランスの科学者ベルヌイ氏が開発した、火炎溶解法によって製造された合成石です。
粉末状の化学物質を高温の火炎の中に入れ、溶けた物質によって結晶が作られます。
フラックス合成スピネル
固形物質のフラックスが溶解時に他の物質も一緒に溶かし、時間をかけて結晶を作ります。
合成クォーツ
天然クォーツの原石は豊富に産出されていますが、クォーツは電流によって振動する性質をもつため、フィルタや時計、通信機器などの産業用目的でも使われます。
そのため合成クォーツが作られ、大量生産されてきました。
合成クォーツは熱水法によって作られます。合成石ですので、化学成分は天然クォーツと同じです。
合成クォーツはアメジストやシトリンなどの他、バイカラートルマリンとして売られていることもあります。
着色コーティング処理されたホワイトトパーズ
画像:透明石にコーティング処理を施し、ロードライトガーネットと偽ったもの
コーティング処理とは、着色剤を宝石に塗ることで、色を改変したりすることです。
この処理では、塗料のようなものを宝石の一部や全体、中には裏側だけや表面だけなど、様々な場所に塗ることにより、宝石の見た目を変えていきます。
カラーレスのホワイトトパーズは、金属酸化物をコーティングすることにより、メタリックな色へも変化します。
処理後の色によって、様々な宝石の偽物として出回っています。
例えば、パライバトルマリンのネオンブルーをもつ天然トパーズと偽ったパライバブルートパーズとして販売されたり、バイカラートルマリンとして売られていることがあります。
▶着色コーティングされた宝石についてはコチラの記事も参考に
加熱処理されたオパール
画像:加熱処理や着色処理で色を変えられたオパール
オパールに加熱処理を施して、色を変えたものです。
ホワイトオパールなどが多いようです。
加熱することによりブラックオパールなどに見た目が似る場合もあるそうで、価値がより高いブラックオパールとして販売するために加熱処理が施されるのだといいます。
ブラックにならずオレンジ色になったものがファイアオパールとして売られていることもあるようです。
加熱処理済みのオパールの価値は、1石数千円程度です。
海外ではこれらをライトニングリッジ産のブラックオパールや、メキシコ産ファイアオパールと偽り、高値で販売することがあるようです。
ダブレット宝石
画像:アメシストとして売られていた、ダブレットガラス
ダブレットとは2つの素材の薄片を張り合わせて、本物の宝石のように見せたものです。
3つの素材を張り合わせたものは、トリプレットと呼ばれます。
ダブレットは天然宝石の薄片同士を張り合わせたものから、天然石の下にガラスや合成宝石を合わせたもの、人工素材同士など、様々な組み合わせのものが流通しています。
よく見かけるものは、オパールのダブレット。
オパールの薄片を2枚張り合わせたものから、天然オパールの薄片にプラスチックや染色ブラックカルセドニー、ガラスなどを張ったものが売られています。
また、同色のガラスを2枚張り合わせて、アクアマリンやアメジストに似せたものや、合成スピネルを張り合わせたものも見つかっています。
ガラス
画像:トパーズに模したガラス
ガラスは色が豊富で安価なことから、様々な宝石の偽物が作られています。
ダイヤモンド、ルビーやサファイア、エメラルドなど、どんな宝石にも似せることが可能です。
また、光学効果をもつクリソベリルキャッツアイや琅玕(高品質の翡翠)などの偽物も作られています。
このほか、透明な地色に繊細な内包物が見えるオレゴンサンストーンに似たものなど、豊富な種類が流通しています。
偽物の見分け方
宝石が天然か偽物かを見分ける方法は素材や処理などによって異なります。
鑑別機関などプロが見る場合は、まずルーペでインクルージョンの有無を確認します。
天然宝石特有のインクルージョンか、合成石や人工石、人工処理石などの特徴的なインクルージョンかを確認することで一次的な判断をします。
その上で鑑別機器を使用して比重や屈折率、蛍光性、多色性といった性質検査をして、その石が何であるかを特定していきます。
極端に透明度が高い、色が鮮やか過ぎる、バイカラーの境目やキャッツアイやスター効果、遊色効果といった光学効果が不自然など、慣れれば素人目にも分かるものもあるようです。
それぞれについて、具体的にご紹介していきましょう。
合成スピネル
合成スピネルかどうかを見分けるには、次のような方法があります。
まず、スピネルには多くの色合いが存在しますが、イエローは殆ど産出されないといわれています。
上の画像のようなイエロー味を帯びたグリーンのスピネルも天然では殆ど見られないそうですので、上記のような色合いのものは合成を疑います。
また、合成スピネルと天然スピネルは、それぞれ異なる特有のインクルージョンが見られます。
例えば、天然スピネルには、八面体などの結晶インクルージョンや指紋状インクルージョンが見られます。
一方、合成スピネルには合成石特有の気泡が見られます。
ブルーの合成スピネルはブラックライトを当てると赤く蛍光するそうです。
天然のコバルトブルースピネルの中にも赤く蛍光をするものがあるため、赤く蛍光するものが必ずしも合成ブルースピネルとは限らないそうですが、参考値の一つとして見る分には良いと思います。
合成スピネルはアクアマリンの偽物として出回ることも多いようですが、天然アクアマリンは、カラーフィルタを通してみると淡い緑色に見えますが、合成スピネルは全く違う色に見えます。
画像:真ん中の2つが合成スピネル
合成クォーツ
ルーペで見た時に、内包物がはっきり見えたり、角度のある色帯が見える場合は天然のクォーツの可能性が高いと言えます。
但し、クォーツの場合、熟練の鑑定士でもルーペだけでは判断が難しい場合があります。
専門機関にて機材を使った鑑別を依頼することをオススメします。
コーティング処理されたホワイトトパーズ
コーティング処理が施された石は特有の特徴が見られます。
ファセット稜線に色の抜けや剥がれた部分が見つかれば、コーティング処理された可能性が高くなります。
画像で分かる場合もありますので、注意深くチェックしてみると良いでしょう。
加熱処理されたオパール
画像:丸で囲んだ2石は天然、その他は加熱や着色処理済みオパール
オパールが加熱処理済かどうかを見分ける際には、以下の点を重視します。
ブラックオパールの場合、透明感が不自然なほど高いものは加熱処理された可能性があります。
ファイアオパールの場合は、オレンジ色が鮮やか過ぎるものは加熱処理の疑いが濃くなります。
タブレット宝石
ダブレットを見分ける場合には、まず側面を見て、薄片を張り合わせた跡があることを確認します。
張り合わせであれば、ルーペで側面を見た時ガードル部分に接着剤の層を見ることができます。
さらに、張り合わせた素材が合成スピネルやガラスの場合は、気泡の内包物が見られます。
ガラス
天然石とガラスは次のような方法で見分けることが出来ます。
一番は内包物として気泡が見られるかどうかです。
ガラスには特有の気泡があります。気泡の大きさや数は個体差がありますので、1つ2つのものもあれば大小たくさん見られるものもあります。
ペンライトなどで透かして見てみると発見しやすいかもしれません。
次に、ガラスは硬度が高くないため、ファセット面が磨耗していたりファセット稜線に欠けが多いという特徴もあります。
ガラスと天然石は熱伝導率が異なることから、触った時に鉱物はヒヤッと冷たく感じますが、ガラスにはその感覚がないといいます。
ただ、実際に触り比べたり、経験を積まないと感じられない部分かもしれませんので、参考までに覚えておいて頂ければと思います。
ガラス製のサンストーンは、天然にはない三角形の銅の薄片があります。
インクルージョンが揃い過ぎている場合もガラスやプラスチックなどの模造石を疑いましょう。
また、ガラスのキャッツアイは、石に光を当てて横から見ると、特有のハチの巣構造が現れる場合もあるそうです。
最後に
宝石の偽物は残念ながら市場に多く流通しています。
何度もお伝えするようですが、販売する際に事実が消費者に分かりやすく明記して売られている場合は問題ありません。
偽ったり、わざと分かりにくく表記し販売されていることが問題なのです。
今回ご紹介したような見分け方も参考にはして頂きたいですが、素人が画像や店先で簡単に確かめられる方法ばかりではありません。
そのために、宝石を購入する際には、口コミや購入者の評価を確かめるなどして、信頼できるショップかどうかを事前確認することも大切です。
また、特に高価な宝石の場合は、信頼のおける鑑別機関による鑑別書が付属しているかオプションで付けられるものを購入することをオススメします。
偽物宝石が世の中からなくなる日が来ることを祈って・・
カラッツ編集部 監修