Photo by : Han Myo Htun
三大カラーストーンとして名高いルビー、サファイア、エメラルド。
古くから世界中で愛されており、宝石を愛する誰もが知る宝石ではないかと思います。
これらの宝石にはそれぞれ最高峰と呼ばれるものがあります。
例えば、サファイアはインドカシミール産のコーンフラワーブルー、エメラルドはコロンビアのムゾー鉱山で採れたもの。
そしてルビーは、モゴック産のピジョンブラッドです。
ピジョンブラッドとは鳩の血という意味で、ルビーの中で最も品質の高い色を指します。
そんな素晴らしいルビーが採れるモゴック地方は、かつてビルマと呼ばれていたミャンマーにあります。
モゴック産ルビーの世界に早速ご案内しましょう。
目次
モゴック地方は何処にある?
モゴック地方は、マンダレーという都市の北東約200キロにある標高1500mの地域です。
ミャンマーの中央を縦断しているモゴックベルトの上に位置しています。
モゴックベルトとは、地殻変動など地球のエネルギーによって生じた高温高圧変性帯のこと。
モゴック地方は良質なルビーが産出されるため、「ルビー渓谷」と呼ばれることもあるそう。
宝石が採れる一帯は「モゴック鉱区」と呼ばれていて、いくつかの谷や町で構成されているといいます。
モゴックではルビーの外にも、サファイアやスピネル、ペリドット、トルマリン、ガーネット、アメシストなど、様々な宝石が採れます。
最近まで外国人が入ることは禁止されていたそう。
Photo by : Han Myo Htun
モゴック地方には、ミャンマー人のほかにシャン族、グルカ族、リス族、その他多くの民族が暮らしていて、宝石採掘の鉱夫やカッティング、取引業などに従事しています。
鉱山では様々な方法でルビーの採掘が行われています。
時には、ダイナマイトを使って鉱脈を破壊することもあるそうですが、大理石は崩れてもルビーは崩れない程度の力に調節されているのだとか。
そうやって崩された大理石の中から、ルビーが選別されます。
ルビーが取り除かれた岩石は廃棄されるのですが、その中には見落としたルビーが残っていることもあるのだそうです。
廃棄された岩石の中からルビーを探し出す作業は、モゴックに住む女性たちにのみ許されていて、一般開放されている市場で売ることも認められているのだそうです。
カナセと呼ばれる女性たちが、鉱山から破棄された真っ白な大理石を注意深く砕き、どんなに小さな結晶でも見逃さないように集めている様子は、きっと独特な光景なんでしょうね。
まさに宝探し! 私もやってみたいですが、外国人なので許されていません。残念です!
モゴック産ルビーの特徴
モゴック産ルビーには、いくつかの特徴があります。
まずは燃えるように赤い発色。
モゴック産ルビーは母岩が不純物の少ない大理石であり、クロムを多く含むことから、透明度が高く鮮やかなレッドを発色すると考えられています。
また、紫外線を当てると強い蛍光を示す性質もあります。
ルビーの蛍光性はクロムの影響と考えられており、クロムの量が多い程蛍光が強くなるそうですが、一方で同じくルビーに含まれる鉄には蛍光性を抑制する作用があるといいます。
そのため、クロムと鉄の含有量のバランスで蛍光性の強さが変わるのだそうです。
ルビーは全般的に蛍光するのですが、モゴック産ルビーは他の産地のものと比べてクロムが多く鉄が少ないという特徴をもつため、蛍光が強いものが多いということです。
同じく強い蛍光を示すものとしてモザンビーク産もあり、蛍光の仕方が比較的モゴック産と似ているそうですよ。
また、シルクインクルージョンと呼ばれる針状ルチルが60度と120度に3方向に交差したものの集合体が見られることも特徴の一つです。
シルクインクルージョンは、スリランカ産など、モゴック産以外にも見られることが多いのですが、モゴック産ルビーのシルクインクルージョンはスリランカ産に比べ太くて短いという特徴があるそうです。
シルクインクルージョンの他にもスタッビィ状結晶と呼ばれるずんぐりした形のインクルージョンや、スピネルインクルージョンが入ることもあるそうです。
モゴック地方では、ルビーとスピネルが同じ鉱床で生成されることも多く、スピネルがルビーの生成途中に入ることも不思議ではないと考えられているようです。
モゴック産ルビーの色
Photo by : Han Myo Htun
モゴック産ルビーは、先ほどもお伝えしたように、鮮やかなレッドを発するものが多いといわれています。
ルビーのレッドは、発色元素であるクロムの量や他の微量元素との兼ね合いで変わってきます。
クロムが1%くらい含まれているものが一番美しい色合いが出やすいのだそうです。
クロムが多すぎるとグレーっぽくなり、少なすぎると赤みが減りルビーではなくピンクサファイアに分類されるものが多くなるのだとか。
モゴック産ルビーはクロムを始めとする微量元素の量や割合が適度で、美しい色合いを呈するものが多いという訳ですね。
ただし、モゴック産ルビーが全て高品質という訳ではありません。
様々な品質のものがありますので、モゴック産だからと言って、低品質のものを高額に買わないようご注意下さいね。
ちなみに、モゴックで採れる淡い色のルビーは、明るくパープルがかっていることが多いといいます。
その理由は、モゴック産ルビーは鉄が少ないため黒味が出ないこと、ブルーの発色要因であるチタンが含まれていること、などが挙げられるのだそうです。
ピジョンブラッド
最高品質のルビーは、冒頭でご紹介した通り、ピジョンブラッド(鳩の血)と評される、鮮やかで濃いレッドをしたものです。
黒っぽくて暗い色合いが入ってくると、ビーフブラッド(牛の血)と呼ばれるようになるといいます。
昔は、モゴック産ルビーだけにピジョンブラッドという名称が使われていましたが、現在は、産地は関係なく色味だけで判断されるようになりました。
つまり、どこの産地であっても、ピジョンブラッドと呼ばれるものが産出される可能性があるのです。
モゴック産ルビーの歴史
Photo by : Han Myo Htun
モゴックは15世紀からずっと、世界の中心的なルビー産地として知られています。
モゴックのルビーに関しては様々な伝説があります。その一つをご紹介しましょう。
伝説は約2,000年前に遡ります。蛇が3個の卵を産みました。 最初の卵からはBagan王、第2の卵からは中国の皇帝、第3の卵からはモゴックのルビー鉱山で採れるルビーが生まれました。
モゴックのルビーは王様や皇帝と兄弟である、というお話のようですね。それだけ貴重で素晴らしいものという位置づけなのでしょう。
それにしても、ルビーが蛇から生まれるなんて、ちょっとビックリする伝説ですね。
Photo by : Han Myo Htun
1597年、モゴックのルビー鉱山を管理する権利が、殷(古代中国の王朝)からビルマ王に引き継がれました。
当時は、大きなルビーが採れたら王様に献上しなければならなかったので、わざと砕いて売ることもあったとか。
その後植民地時代に入ると、フランスやイギリスがモゴックの鉱山へ触手を伸ばし、最終的にイギリスが権利を勝ち取りました。
モゴックの鉱山はイギリスによって機械化され、ビルマ産ルビーが世界中に広められたそうです。
1969年にビルマ政府がモゴックの鉱山を国有化しましたが、1990年ごろには緩和されました。
外国人は長いことモゴックに足を踏み入れることができませんでしたが、現在では外国の投資なども見られるようになっているそうです。
モゴック産ルビーにおける加熱処理について
ルビーは、その色を最大限に引き出すために、昔から加熱処理が施されています。
そのため、加熱処理をしても著しく価値が下がることはないといわれています。
中には未処理の状態でも赤く美しいものもあり、それらは希少価値が高く、価格が上がります。
しかしながらルビーは、処理の有無より、色の美しさの方が重視されるため、加熱処理が施されていても、色が美しく透明度が高いものは、それより品質の劣る非加熱のものより高く扱われる場合も多いといいます。
非加熱モゴック産ルビーの特徴
非加熱のルビーは、加熱したルビーとはどう違うのでしょうか。
先ほども触れた通り、モゴック産ルビーにはシルクインクルージョンと呼ばれる絹糸状ルチルのインクルージョンが入ることが多いです。
これらは加熱することで消えてしまうことが多いため、シルクインクルージョンが見られる場合は、非加熱である可能性が上がるといいます。
但し、シルクインクルージョンが消えない低温加熱処理もあるため、実際の鑑別では、それ以外の検査の結果も踏まえ、加熱か非加熱かの判断がなされます。
モゴック産ルビーを買うなら?
Photo by : Han Myo Htun
最高峰の輝きを放つ、モゴック産ルビー。
モゴック産ルビーの価値を見極めるために、価値基準と市場価格などについても調べてみましょう。
但し、市場で見かけるものの多くは、ミャンマー産(ビルマ産)として売られています。
ミャンマーには、モゴック以外にモンスーという有名なルビーの産地があり、モゴック産なのかモンスー産なのか分からないものも多いです。
鑑別機関によっては、モゴック産かモンスー産かまで確認できる場合もあるようですので、確認したい場合は一度相談してみると良いかもしれません。
価値基準
ルビーの中で最も価値が高いといわれているモゴック産のピジョンブラッド。
最も重要なことはなんと言っても色の美しさです。色が鮮明で赤みが強い方が価値が上がるとされます。
また、大きい結晶の産出が少ないことから、1ct以上でかなりの高価格になるそうです。
つまり、最も価値の高いモゴック産ルビーは、鮮やかなピジョンブラッドで、透明度が高く、1ct以上の大きさがあり、カットが美しいもの、ということなのです。
ルビーは産地鑑別ができることもあり、産地によって価値が変わります。
モゴック産ルビーは、同じ品質であれば、他の産地のものに比べて付加価値がつき高く扱われます。
例えば、同じような品質のモザンビーク産ルビーよりモゴック産ルビーの方に高値が付くというわけですね。
市場価格
モゴック産のルビーで高品質なものであれば、たとえ0.1ctと小さいものであっても、数万円の値段がつくこともあるそうです。
それが1ct以上の大きさのピジョンブラッドとなると百万円を超え、更に、非加熱で色合いが美しいものとなると、サイズによっては1億円を超える値段が付けられることもあるそうです!
資産として、高額なモゴック産ルビーを持っている方もいらっしゃるんでしょうね。
羨ましいです!
どこで買える?
モゴック産のルビーは、どこで手に入れることができるのでしょうか。
モゴック産のルビーと言えど、全てが高品質とは限らず、品質があまり高くないものもあります。
品質が低いルビーは産地鑑別がされないので、普通のルビーとして売られているものもあるでしょう。
また、前述したとおり、モゴック産ルビーはミャンマー産やビルマ産として売られる場合も多いです。
高品質のモゴック産ルビーの場合、高額な買い物になると思いますので、信頼できる鑑別機関の鑑別書が付いているものかオプションで取り寄せてもらえるものを購入されることをオススメします。
最後に
宝石好きなら誰もが憧れる、モゴック産ルビーについてお話しました。
モゴックのルビーが蛇の卵から産まれた、という伝説には本当に驚きましたよね。
そんな不思議な伝説が生まれるほど、類まれな美しさと神聖さがあるのかもしれません。
ルビーを取り除いたあとに廃棄された大理石を集めて、小さな結晶を探し出すモゴックの女性たちの姿は、まるでおとぎ話の宝探しのようです。
一度で良いから、私も大理石の中から小さなルビーを探し出してみたいものです。
そしていつか、憧れのモゴック産のピジョンブラッドに出会えたら良いな、と改めて思いました。
▶モゴック産ルビーについては、こちらの記事も参考に
モゴック産ルビーを求めて、銃声鳴り響くタイ・ミャンマーの国境へ
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『決定版 宝石』
著者:諏訪恭一/発行:世界文化社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版発行
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『インクルージョンによる宝石の鑑別』
著者:近山晶/発行:全国宝石学協会 ほか