太陽の名前が付いた宝石サンストーンをご存知ですか?
まるでグリッターやラメ、スパンコールが結晶に詰まっているかのような煌めきが特徴的な、まさに太陽のようにキラキラ輝く素敵な宝石です!
でも調べてみると、サンストーンという鉱物は存在していないそう・・・その話を聞いたとき私はとてもビックリしてしまいました。
サンストーンとはいったいどんな宝石で、どんな種類があるのでしょう。
そして、なぜサンストーンと呼ばれているのか、その名前の意味なども気になりますね!
実はとても奥の深いサンストーンの世界をご案内しましょう。
目次
サンストーンとは?
サンストーンは長石(フェルスパー)グループの一員です。和名は日長石(にっちょうせき)といいます。
多種多様な長石の中でオレンジ~レッドのボディカラーを持ち、アベンチュレッセンスという光を当てるとキラキラ光る光学効果をもつ宝石の宝石名が、サンストーンなのです。
長石グループは、大きく分けると、カリウムとナトリウムを主に含むアルカリ長石グループとナトリウムとカルシウムを主に含む斜長石グループ(プラジオクレース)の2種類に分けられます。
サンストーンは、アルカリ長石グループの中にも斜長石(プラジオクレーズ)グループの中にも両方に存在しているそうですよ。
アルカリ長石グループは、オーソクレース(正長石)とアルバイト(曹長石)を、斜長石グループは、アノーサイト(灰長石)とアルバイト(曹長石)をそれぞれ端成分にもち、その割合によって名前が変わります。
これらの中で条件に当てはまるものがサンストーンと呼ばれるため、オリゴクレース種のサンストーンもあれば、オーソクレース種のサンストーンもあるといったように、鉱物種は様々です。
鉱物としての基本情報 (オリゴクレース種の場合)
サンストーンの特徴を知るために、最もサンストーンが多いといわれる、オリゴクレース(灰曹長石)の鉱物としての基本情報をご紹介しましょう。
英名 | Oligoclase(オリゴクレース) |
和名 | 灰曹長石(かいそうちょうせき) |
鉱物名 | フェルスパー |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 三斜晶系 |
化学組成 | (Na,Ca)(Al,Si)AlSi2O8 |
モース硬度 | 6.0 – 6.5 |
比重 | 2.62 – 2.65 |
屈折率 | 1.53 – 1.55 |
光沢 | ガラス光沢 |
特徴
サンストーンの特徴は、何と言っても、キラキラ光るアベンチュレッセンス(アベンチュリン効果)でしょう。
オレンジ~レッドの地色の中にキラキラと光る様はまさに太陽のよう。
先程もお伝えしたとおり、長石グループに属する鉱物の内、条件に当てはまるものがサンストーンと呼ばれるため、鉱物種は様々です。
サンストーンが見つかることが多いのは、オリゴクレース、オーソクレース、アンデシン、ラブラドライトなどです。
アベンチュレッセンスの正体については後述の「サンストーンの煌めきのヒミツ」の中でご紹介しましょう。
色
先にお伝えしたとおり、サンストーンの地色はオレンジ~レッドです。
産地
サンストーンの産地を見てみましょう。
インド、ノルウェー、カナダ、アメリカ、ロシア、コンゴ、タンザニア、ケニア、中国などです。
なんと、日本の三宅島でもサンストーンが産出されることがあるそうですよ。
世界各地に散らばっているという印象ですよね~。
最初に発見された煌めきの美しいサンストーンは,インド産だったと言われています。
ちなみに、三宅島のサンストーンはアノーサイト(灰長石)、インド産はオリゴクレース(灰曹長石)、タンザニア産はオーソクレース(正長石)、チベット産はアンデシン(中性長石)、アメリカ・オレゴン州産はラブラドライト(曹灰長石)であることが多いようです。
原石の形
オリゴクレース(灰曹長石)に属しているサンストーンの結晶は、さきほどもご紹介した通り三斜晶系で、稀に平板結晶もあるそうです。
通常は塊状で産出するのだそうですよ。
三斜晶系とは、柱が斜めになったような形に近い感じです。
似たような形に単斜晶系がありますが、対称性はじめ様々な違いがあるのだとか。
ちなみに、オーソクレース(正長石)に属しているサンストーンの結晶系は単斜晶系なのだそうです。
名前の意味
なぜサンストーンという名前が付いたのでしょうか。
それは、月のような光で知られているムーンストーンに対する宝石として名付けられたのだそうですよ。
柔らかくてポワンとした青白い光を放つムーンストーンとは違い、サンストーンにはまさに太陽のように強力な煌めきがあります。
ムーンストーンとサンストーンは同じ長石グループに属していますが、類似性はあまりないといわれており、光学効果が発生する仕組みも違っています。
また、両者の歴史も大きく違います。
ムーンストーンの歴史は古く、古代より人々に珍重されてきましたが、サンストーンの歴史は1800年代以降から始まったという説が知られています。
つまり、ムーンストーンは紀元前から知られている宝石で、19世紀に入って強く煌めく長石が発見された時に、月を象徴するムーンストーンに対する宝石として、太陽を象徴するサンストーンと名付けられた、ということです。
なお、サンストーンはアベンチュリン長石やヘリオライト(ギリシャ語で太陽の石)と呼ばれることもあるそうです。
施される処理について
サンストーンは今のところ、処理されているものはあまり市場に出回っていない印象です。
特にアメリカ・オレゴン州で採れるオレゴンサンストーンは処理されることはないと、今のところいわれているようです。
しかし、一般的なサンストーンには、色を強化するための処理が施されることもあるようです。
また、フラクチャー充填している可能性もあるともいわれていますので、処理されたサンストーンは絶対にない、とまでは言い切れないのが現状のようです。
サンストーンの煌めきのヒミツ
サンストーンはなぜキラキラ煌めくのでしょうか。
その秘密は、インクルージョンと光が織りなすアベンチュレッセンス(アベンチュリン効果)にあります。
アベンチュレッセンスとは、インクルージョンが光を反射して煌めきを発する光学効果です。
サンストーンのインクルージョンはレピドクロサイト(鱗鉄鉱)やヘマタイト(赤鉄鉱)、ゲーサイト(針鉄鉱)など、鉄によるものが多い傾向にあります。
後ほど詳しくご紹介する、アメリカ・オレゴン州で産出されるオレゴンサンストーンのインクルージョンは銅によるものです。
これらインクルージョンの大きさや場所によって、出現するアベンチュレッセンスの様子も変わってきます。
小さいインクルージョンは、宝石の表面にレッドやゴールドの光沢を作ります。
大きなインクルージョンは、光を反射しキラキラとした輝きを見せます。
サンストーンの種類
サンストーンの中にはインクルージョンの入り方などによって、見た目が異なる種類もあります。
その内のいくつかご紹介しましょう。
レインボーラティスサンストーン
レインボーラティスサンストーンの輝きには驚くべきものがあります。
その名の通り、虹色のラティス(格子)が浮き出たサンストーンです。
虹色のラティス模様はインクルージョンによるもので、それらが格子状に交差して、光が当たると反射して煌めくのです。
自然がつくりだす素晴らしい意匠に、ただただ感動するばかりですね。
スパングルサンストーン
スパングルサンストーンは、大きめのスパンコールが入ったようなサンストーンです。
そう、スパングルとはスパンコールのこと。
レピドクロサイト(鱗鉄鉱)の大きなインクルージョンは、さながらオレンジ色やゴールドのスパンコールが入っているかのようです。
スパングルサンストーンには格別の煌めきがあり、サンストーンの中でも大きな存在感を放っているように思います。
ブラックサンストーン
灰黒色~黒色に、星のようなインクルージョンが光るブラックサンストーン。
まさに星空を切り取ったかのような宝石です。
大小の星が散りばめられているもの、天の川のように帯状の星が入っているものなど、本物の星空同様、様々な表情があります。
オーソクレース(正長石)に分類される一種なのだそうです。
サンライズサンストーン
サンライズサンストーンは、オーソクレース(正長石)種のサンストーンです。
朝日が昇るようなサンストーンとは、どのようなものでしょうか。
それは、スター効果やキャッツアイ効果のあるもので、それぞれスター・サンストーン、サンストーン・キャッツアイと呼ばれています。
スリランカで見たサンライズサンストーン
詳しくは後述しますが、私は「南インド産のスター・サンストーン」と表示されている石をスリランカの宝石店で見たことがありますよ。
あれが天然のスター・サンストーンだったのかどうかは定かではないですが・・・。
サンストーン特有のインクルージョンがビッシリつまっている不透明のボディに、光を当てると6条の光が出現する宝石でした。
驚いたのは、6条の光だけでなく、スパンコールのようなインクルージョンもキラキラ光っていたことです。
とにかく派手な宝石だなぁ!という印象をもったのを覚えています。
オレゴンサンストーン
サンストーンの中でも人気が高いのがアメリカ・オレゴン州で産出されるオレゴンサンストーンです。
オレゴンサンストーンは虹色の光で知られているラブラドライト(曹灰長石)に属します。
オレゴンサンストーンの中にはアベンチュレッセンスを示すものと示さないものがあり、地色もオレンジ~レッドの他、グリーン、イエロー、カラーレス、ベージュなど色々あります。
そもそもサンストーンと呼べる条件は、「オレンジ~レッドの地色でアベンチュレッセンスを示すもの」になるため、オレゴンサンストーンの全てがサンストーンに当てはまる訳ではありません。
逆に言うと、サンストーンに当てはまるものもありますが、オレゴンサンストーンの場合は、サンストーンとしてではなく、オレゴンサンストーンとして流通するものの方が多い印象です。
そのため、鑑別書の宝石名もサンストーンではなく、ラブラドライトと書かれることが多いです。
ちなみに、オレゴンサンストーンのアベンチュレッセンスは、シラーと呼ばれることもあるようですよ。
サンストーンの歴史
サンストーンの歴史は、先ほども触れた通り19世紀になってから始まったといわれています。
現在アンティークジュエリーと呼ばれている装飾品がヨーロッパで作られていた時代、サンストーンも素材として使われるようになったのだそうです。
イギリスのエドワード朝に作られたジュエリーの一つで、サンストーンがあしらわれた、黄金に輝くネクタイピンが紹介されている本を見たことがありますよ。
1800年代の初めころ、サンストーンは希少で高価な宝石だったといいます。
しかしその後ノルウェーやシベリアなど世界各地で発見され、価格が安くなったのだそう。
そして1900年代初頭、アメリカ・オレゴン州の砂漠地帯でオレゴンサンストーンが見つかったといいます。
世の中にオレゴンサンストーンが知られたのはそれ以降ですが、実ははるか昔からネイティブアメリカンに大切にされていたようです。
ネイティブアメリカンの伝説に、戦士にパワーを与える石としてサンストーンが登場しているそうですよ。
サンストーンの偽物について
サンストーンの偽物が作られ流通していることが、残念ながらあるようです。
小さくて平らな銅の結晶を含んだ、ゴールドストーンと呼ばれるガラスがサンストーンの模造石として出回ることもあるようです。
現在のところ、そんなに多く出回っているというような印象はありませんが、どこかで会ってしまう可能性がゼロとはいえません。
模造石は注意深く見れば区別できる可能性も高いそうですが、オンラインショップなどで画像を見ただけで気付かない可能性もあるでしょう。
信頼できるお店で買うこともとても大切ですね。
南インド産スター・サンストーン
先ほどサンライズサンストーンの箇所で述べた通り、私は15年以上前にスリランカの宝石店で「南インド産スター・サンストーン」として売られているルースを見たことがあります。
トレイ一杯に並べられているピンクやレッドのサンストーンと濃いブルーのサンストーンで、光を当てると6条の光がくっきりと浮き出るものでした。サンストーンにブルーあったっけ?と違和感がありました。
透明度が極端に低いスタールビーとスターサファイアによく似ていましたよ。
あまり宝石に詳しくない人に「スタールビーとスターサファイアですよ」と言っても信じてしまうのではないか、と心配になったほどです。
でも、ちゃんとインド産スター・サンストーンと明記され、しかもひとつ千円くらいの安い値段で売られていました。
石の裏側やサンストーン特有のインクルージョンなどを見ると、作り物ではなく天然石かな?とも思ったのですが、毒々しいほど強い発色だったこともあり、着色などの処理がしてあるのではないか、という印象をもちました。
もしかしたら処理石だったかもしれませんし、模造石だったのかもしれません。話のタネに、一つくらい買っておけば良かったかな、と今になって思います。
サンストーンの価値基準と市場価格
サンストーンを買う時に知っておくべきポイントは何でしょうか。
どの様なサンストーンに価値があるのか、その基準を見てみましょう。
そして市場価格や買える場所などを知り、購入する際の参考にしましょう。
価値基準
サンストーンの価値基準にはどのようなものがあるのでしょうか。
何と言ってもアベンチュレッセンスが強くて色が濃いものほど、価値が高い傾向にあります。
加えて、透明度が高く、カットが美しく、大きなカラットになるほど価格が上がるようです。
オレゴンサンストーンの場合は、地色がオレンジ系でアベンチュレッセンスが美しく出現しているものと、ブルー系やグリーン系のものが特に価値が高いとされます。
市場価格
サンストーンの市場価格はどのくらいなのでしょうか。
サンストーンとオレゴンサンストーンでは、価格帯が少し違う傾向にあります。
サンストーンは、数千円くらいからの価格で売られているようです。もちろん、クォリティが高いほど値段も高くなりますよ。
オレゴンサンストーンも、品質次第で数千円~数万円の幅があるようです。
個性が強い宝石のため比較は難しい部分もありますが、前述した価値基準を頭に入れつつ、様々なサンストーンやオレゴンサンストーンを見てみることをオススメします。
どこで買える?
サンストーンが欲しい!そんな時、いったいどこで買えるのか気になります。
ルースの取り扱いが多いお店でしたら見つけられる可能性が高いでしょう。
最近ではオンラインショップも充実しており、比較的簡単にサンストーンを見つけることができるようです。
特にオレゴンサンストーンはとても人気が高く、取り扱っているお店も増加の傾向にある印象です。
ジュエリーも見かけることが増えてきましたね。
リングの場合はぶつけないように注意が必要ですが、いつでもサンストーンの煌めきを眺めることができる魅力があります。
ペンダントやピアス、イヤリングなどもあるようで、これらの方が気軽に身に着けられるかもしれませんね。
サンストーンのお手入れ方法
サンストーンのお手入れは、どのような点に注意すべきでしょうか。
クリーニングする時は、超音波やスチーム洗浄は避けてください。
他の多くの宝石と同じように、温めの石鹸水の中で洗い、柔らかい布で水分をしっかり拭き取ることが一番安心です。
サンストーンはモース硬度が6.0 – 6.5と高い方ではなく、劈開もありますので、強くぶつけたり落としたりしないように注意しましょう。
熱にも弱い傾向がありますので、直射日光が当たる場所に放置したり、暖房器具やドライヤーの熱が直接当たらないように念のため気をつけた方が良いと思います。
また、塩酸によって損傷してしまうそうですので、漂白剤などは絶対に使わないようにしてください。
最後に
太陽のようにキラキラ輝くサンストーンについてご紹介しました。
長石の仲間であるサンストーンは、とても種類が多いことがわかりましたね。
サンストーンは鉱物名ではなく、条件に合ったものだけに付けられる宝石名であることも分かりました。
そして、同じ長石の仲間で月を象徴するムーンストーンに対して名付けられたという経緯もありました。
アメリカオレゴン州で採れるオレゴンサンストーンの美しさが際立っており、とても人気です。
インクルージョンの種類や大きさなどで表情がガラリと変わるサンストーン。
産地別、長石の種類別、色別など色々なサンストーンをコレクションしてみたいなぁ、と思いました!
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版発行
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社 ほか