明るいブルーグリーンが印象的な宝石、ターコイズ。
世界最古の宝飾品の一つに使われるなど、古くから愛され続けてきた宝石の一つです。
煌びやかなツタンカーメンのマスクに用いられていることも有名な話ですよね。
今回は、古くから人類と共にあったターコイズの、産地や産地別特徴、産地による価値の違い、原石の形などについて、お話しましょう。
目次
ターコイズとは?
12月の誕生石の一つとしても親しまれているターコイズ。
ターコイズは、古くから世界各地で神聖な宝石と崇められてきた宝石で、多くの言い伝えが残ります。
例えば、中東では天空神に捧げる宝石の一つとされたり、ある民族においては雨乞いの儀式に用いられるなど、異なる文明にあっても、それぞれ神秘の力が宿る石と信じられていたようです。
ターコイズの象徴的な色合いは、微量の銅によるものと考えられています。
産地によっては、鉄が含まれることもあり、銅より鉄が多くなるとグリーンが強くなるのだそうです。
ターコイズの産地
ターコイズは主に、乾燥した不毛の地域で産出されるといわれています。
代表的な産地としては、イラン、アメリカ、中国などですが、その他にも多くあり、ターコイズの産地は、まさに世界中に散らばっているといえます。
中東地域・・・エジプト、アフガニスタン
中央アジア・・・カザフスタン、ウズベキスタン
南米地域・・・メキシコ、ブラジル、ペルー、チリ
アフリカ大陸・・・タンザニア、スーダン
ヨーロッパ・・・イギリス、ドイツ
この他、ロシアやオーストラリアなどでも産出され、日本でも栃木県で被膜状のターコイズが見つかったことがあり、標本になっているそうですよ。
産地別特徴
ターコイズには様々な産地があることが分かりました。
産地によって、特徴や歴史的背景などの違いはあるのでしょうか。
ターコイズの産地別特徴について見てみましょう。
イラン
かつてペルシャと呼ばれたイランは、エジプトのシナイ半島とともに、古くからターコイズの産地として有名です。
最初にヨーロッパに渡ったターコイズはイランで採掘されたものなのだとか。
イランのある地域で採れるターコイズは耐久性が高くて変色しにくく、色も濃く均一で最高品質のものが多かったといいます。
ターコイズの最高品質の色合いともいわれる、濃いミディアムブルーを「ペルシアンブルー(ペルシャンブルー)」などと呼ぶことも、イラン(ペルシャ)で古くから品質の高いターコイズが採れたことに由来するのかもしれませんね。
ところが、かつてあった採掘現場の多くは既に閉山してしまっているのだそうです。
ああ残念!と思っていたら、「ケルマン地域」で良質のターコイズが再発見されたというニュースが。
採掘量に期待が集まっているそうですよ。イラン産の最高級ターコイズにまた多く出会える日が来ると良いですね!
アメリカ
アメリカでは、先住民たちが紀元前300年頃からターコイズを用いていたそうですよ。
儀式や物々交換、お守り、アクセサリー、刀剣などに使われていたとのこと。
アメリカのターコイズの産地は、南西部や西部に集中しています。
それぞれの産地による特徴を見てみましょう。
アメリカ南西部
アメリカ南西部にあるターコイズの産地は、アリゾナ州とニューメキシコ州です。
アリゾナ州のキングズマン鉱山は商業的な鉱山として機能しており、淡いブルーから濃いブルーのターコイズを産出しています。
それから、もう閉山してしまいましたがスリーピングビューティーという有名な鉱山もありました。
そこでは鮮やかな色合いをもつ高品質のターコイズが産出されていたそうです。
もう一つの産地、ニューメキシコ州には最も古いターコイズ鉱山があります。
ティファニー社が「ティファニーターコイズ」という名前で流通させていた時代もあったとか。
ティファニーのブランドカラーのような、明るいブルーのターコイズが思い浮かびますね!
アメリカ西部
アメリカ西部にあるターコイズの産地は、ネバダ州、コロラド州、カリフォルニア州などです。
その中で、最も鉱山が多く、産出も盛んなのはネバダ州です。
ネバダ州で採れるターコイズの特徴は「スパイダーウェブ」と呼ばれる、蜘蛛の巣のような模様が入っているものが多いこと。
細かいスパイダーウェブが入った「ランダーブルー」と呼ばれるターコイズには高い価値が認められているそうです。
ランダーブルーはターコイズの鮮やかなブルーと緻密なスパイダーウェブとのコントラストがとても美しく、希少性も高い宝石です。
また、同じくネバダ州のキャリコ・レイク鉱山は、珍しい石を産することでも知られており、アップルグリーンやイエローグリーンのターコイズが採れることもあるそうですよ!
どんなものなのか、一度見てみたいものですね。
その他、コロラド州では、硬質の砂泥岩の中で良質のターコイズが形成されたり、カリフォルニア州のアパッチ渓谷にある鉱山では、砂岩の割れ目に堆積した、小さなサイズのターコイズが多く採れるという特徴があります。
中国
中国のターコイズを最初に発見したのは遊牧民だったといいます。
後のシルクロードとなる交易路を通じ、書物などの交易品と共にヨーロッパに渡ったと伝わります。
中国のターコイズは主に、河北省、湖北省、安徽省、チベットなどで産出されています。
品質の高いものが多く産するのは、湖北省で、中にはイラン産にも負けないような高品質ものが採れることもあるのだとか。
中国で採れるターコイズは、鉄を多く含みグリーンがかったものが多いという特徴があり、「緑松石」と呼ばれることもあるといいます。
青銅器時代からターコイズの装飾品が作られている中国。世界最大のターコイズ消費国ともいわれているようですよ。
中国の職人による見事なターコイズの彫刻も数多く残っていますね。
オーストラリア
オーストラリアのターコイズは、1967年に発見されました。
ビクトリア州とクイーンズランド州、ノーザンテリトリーなどに産地があります。
オーストラリアで採れるターコイズは、他の産地よりも明るいブルーのものが多いことと、珪酸成分が多いため硬質のものが多いという特徴があります。
ところで、「オーストラリアンターコイズ」という名称で流通している白っぽいビーズがあるのをご存知でしょうか。
それらはターコイズではなく、マグネサイトなど別の鉱物ですのでご注意下さいね。
ターコイズの原石の形と産出状態
ターコイズは半透明~不透明の結晶で、多孔質という特徴があります。
また、マトリックスと言われる網目模様が入っているものもあります。
それらの特徴は、ターコイズの生成過程と関係があるようです。
ターコイズについて深く知るために、原石の形や生成過程、産出状況についても調べてみましょう。
ターコイズの原石の形
地表からわずか数十メートル以内の地下で、蜘蛛の巣のような層状で生成されるターコイズ。
通常、ターコイズは鉄が多く含まれる砂岩やリモナイトの中で育まれます。
低温条件下で作られるため、殆どの場合、明瞭な結晶の形はありません。
微小な針状や錘状を示す時もありますが、それはかなり稀なことです。
ターコイズの原石は生成する環境によって、腎臓状、塊状、皮殻状、団球状、小粒状、隠微晶質など多様な形で見つかっています。
色は鮮やかなブルーからグリーンまでの範囲です。
色が均一の部分が多い原石もあれば、表面に斑点状の黄鉄鉱や、黒い筋状の褐鉄鉱が現れている原石もよく見られます。
ターコイズの生成過程
ターコイズはとても乾燥した地域で二次鉱物として生成される、銅水和物及びリン酸アルミニウムの化合物です。
ターコイズの生成過程についても見てみましょう。
まず、酸性の水溶液が地下に染み込み、銅を含む黄銅石やクジャク石を溶かします。
そして、近くにある火成岩からアルミニウムやリンなどを取り込み、溶解液を作ります。
それらが冷却する時に化学反応が起こり、そこで生じた微細な結晶が火山岩の隙間に堆積していきます。
こうして長い時間をかけて水分を含んだ多孔質の結晶が生成され、ターコイズが誕生するのです。
褐色の土壌などに染み込んだり、ゲーサイト(針鉄鉱)などと共に生成されると、網目や蜘蛛の巣のようなマトリックス模様が生じます。
地層中の空間が大きければ体積のある塊となり、カットを施せば「ソリッド・ストーン」と呼ばれる混じり気のない均一なターコイズとなるのです。
ターコイズの産出状態
ターコイズの産出状態についても見てみましょう。
前項でご説明したとおり、ターコイズの生成には水が深く関係しており、そのため結晶粒の間には常に水分が存在しています。
また、多孔質であるターコイズは表面に目に見えない微細な穴が無数にあいています。
地中に眠るターコイズは水分を含んでいますが、採掘されて地上に出されると、表面の穴から水分を放出し、たちまち乾燥してしまうこともあるそうです。
同様に、その穴から水分を吸収しやすいという特徴ももつため、色や質感が変わりやすいことから、昔の人々は、ターコイズには神秘な力があると信じたのではないかという説もあるようです。
水分を放出したり吸収したりするターコイズは、まるで生きていて呼吸しているかのように見えたのかも知れませんね。
ターコイズの産地別価値の違い
ターコイズは前述の通り世界各地で採れますが、産地によって価値に違いはあるのでしょうか。
ターコイズは産地識別ができない宝石とされているため、産地による価値の違いは見られないようです。
つまりターコイズの価値は産地の違いはなく、あくまでも色や品質の違いによってのみ変わるということですね。
少し詳しく見てみましょう。
スリーピングビューティー
最も価値が高いとされるターコイズは均一なミディアムブルーだといわれています。
そのような高品質でマトリックス模様のないターコイズは「スリーピングビューティー」と呼ばれています。
スリーピングビューティーとは眠れる森の美女のこと。
もともとは、アメリカのアリゾナ州にあったスリーピングビューティー鉱山からとれる、明るく美しいターコイズの代名詞でした。
しかし残念ながら、スリーピングビューティ鉱山は既に閉山。
現在では産地に関係なく、美しく均一なカラーの高品質なターコイズはスリーピングビューティーと呼ばれているそうです。
ターコイズの色と産地との関係
ターコイズは一般的に、グリーンがかったものよりはブルーのものに価値があるとされています。
ターコイズ特有のブルーには様々な名称があります。
コマドリの青い卵の色をあらわす「ロビンズエッグブルー」、空の色を指す「スカイブルー」。
ペルシャやトルコの名前が入った「ペルシアンブルー(ペルシャンブルー)」「ターコイズブルー」など。
これらの上質なターコイズの色の呼び名は、かつてはペルシャ産のものに使われていました。
しかし現在では、産地に関係なく使われているようです。
グリーンがかったターコイズには「アボカドグリーン」「ライムグリーン」などと呼ばれるものがあり、こちらの色合いを好む方もいらっしゃるようです。
ターコイズの模様と産地との関係
マトリックス模様のあるターコイズは、その細かさや入る位置などによって様々な品質があるようです。
マトリックス模様は生成過程の条件や環境の違いによって生じるので、産地による違いはあまりないとされています。
しかし前述の通り、スパイダーウェブやランダーブルーなど高価値なマトリックス模様のあるターコイズは、アメリカ産に多いといえるかも知れません。
最後に
古代から人々に愛され続けている空色の宝石ターコイズの産地と産地別特徴などについてお話しました。
水分を宿す宝石ターコイズは、まるで豊かな水資源を持つ青い星、地球のようでもありますね。
私はアリゾナ州セドナ土産の、青空を切り取ったような明るいブルーのターコイズピアスを持っています。
そのせいか、私はターコイズといえばアメリカの先住民族が作るアクセサリーが思い浮かびます。
かつてインディアンと呼ばれたアメリカ先住民族は、昔からターコイズと共に暮らしていました。
例えば、アパッチ族は、虹の終わりを追えばターコイズが見つかると信じ、プエブロ族はトカゲがターコイズを作り出すと、ポピ族はターコイズが空の色を奪ったと考えていました。
また、ナバホ族は雨乞いの儀式にターコイズを使い、アステカ族は危険が迫るとターコイズの色が変わると信じています。
どれも、ターコイズの神秘性をあらわすようなエピソードばかりですね。
ターコイズの奥深さ、少しでも伝わっていれば嬉しく思います。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『起源がわかる宝石大全』
著者:諏訪恭一、門馬綱一、西本昌司、宮脇律郎/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版 ほか
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◆https://www.gia.edu/