ラピスラズリは独特の瑠璃色をした宝石で、古来から絵の具としても使われてきました。
中には、まるで夜空に星が輝くようにキラキラと光るものもあります。
実はこのラピスラズリの美しい青色はいくつかの鉱物が集まってできたもの。
12月の誕生石でもあるラピスラズリ。
その夜空のような美しい色の秘密から、市場に多く出回っている偽物についてなど、ラピスラズリについて知っておきたい知識やその魅力をイロイロとご紹介していきたいと思います。
目次
ラピスラズリとは?
12月の誕生石として知られるラピスラズリは、瑠璃色と呼ばれる独特のブルーをした鉱物です。
長い歴史をもち、古くは紀元前の古代エジプトで王族の装飾品などに使用されてきたことでも知られています。
粉にしたものを顔料にし、絵画や岩絵に使われたことも有名ですね。
鉱物としての基本情報
英名 | Lapis Lazuli |
和名 | 青金石(せいきんせき) |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 等軸晶系 |
モース硬度 | 5 ‐ 5.5 |
比重 | 2.4 |
屈折率 | 1.50 |
光沢 | 無艶~ガラス光沢 |
※複数の鉱物の集合体であるため、化学組成は省略しています
特徴
ラピスラズリはラズライトを主として、複数の鉱物が集まって生成しています。
ラズライト以外の主な鉱物はパイライト、カルサイト、ソーダライトなど。
真鍮色のパイライト(黄鉄鉱)と白いカルサイト(方解石)をバランスよく含むものは、夜空に星が煌めいたようなイメージを見せることが特徴的です。
美しい青色は、主要成分であるラズライトによるものと考えられています。
モース硬度が5-5.5と軟らかく、酸やアルカリに弱い性質をもちます。
産地
主要な産地であるアフガニスタン、ロシア、チリのほか、カナダ、アルゼンチン、イタリア、ミャンマー、アメリカ、カナダ、アンゴラ、タジキスタン、中国などでも産出しています。
原石の形
ラピスラズリはラズライトを20~40%含む鉱物で、アウィン(アウイナイト)、ソーダライト、ノゼアンといった青色の鉱物が集合体となってできた岩石です。
そしてこれに真鍮色のパイライトや白いカルサイトなどが含まれるものもあります。
原石は変成岩である結晶質石灰岩中から多く産出されます。
鉱物の集合体であるため、塊状で産出されることが多いですが、点在した粒状の形で産出されるものもあります。
断口は不平端で、カルサイトの白い筋やパイライトの真鍮色の脈が見られます。
ラピスラズリの名前がもつ意味
ラピスラズリ(Lapis Lazuli)という名前は、ラテン語の「lapis(石)」と「lazulum」という言葉を由来とします。
「lazulum」はアラビア語の「lāzaward」が語源です。そしてこの「lāzaward」という言葉はラピスラズリの産地であるペルシャ語の「lāžaward」を語源としているそうです。
つまりは、「lāžawardで採れる石(lapis)」という意味で、これが「Lapis Lazuli」へと変化したということなのです。
ある学者たちの研究によると、古代ギリシャ語の「sappeiros」や古代ローマ語の「sapphirus」など、その昔サファイアと呼ばれていた宝石は、実はラピスラズリのことを示していたであろうという報告もあるようです。
誕生石と石言葉
ラピスラズリは12月の誕生石です。
石言葉は幸運・健康・真実などです。古代の頃には「幸運を招く石」といわれており、邪念を取り払って正常心に戻すと信じられていました。
ラピスラズリのほかに、12月の誕生石にはターコイズ、タンザナイトが選定されています。
ターコイズ(トルコ石)
宝石言葉は成功、繁栄、不屈です。
青~緑色をした不透明な鉱物で、古くからカボションカットや彫刻などを施したジュエリーや装飾品に加工されてきました。
ネイティブアメリカンのジュエリーに使われることが多く、人気もありますね。
蜘蛛の巣のような黒い模様が入ったものもあります。
タンザナイト
宝石言葉は誇り高い、神秘、冷静、高貴です。
ゾイサイトの一種ですが、独特の青紫色が発見地であるタンザニアの夕焼け空に似ていることから、ティファニー社社長によって「タンザナイト」と名付けられたといわれています。
見る角度によって色が変わる多色性が強いことでも知られており、人気の高い宝石です。
古来から顔料としても愛用された美しい青色
美しい青色をしたラピスラズリは、古来から顔料として使用されてきました。
古代、ラピスラズリは主にアフガニスタンのバダクシャンで産出されていたといわれています。
海を渡ってヨーロッパに運ばれたことから、「はるばる海を越えてきた」という意味の「ultramarine(ウルトラマリン)」と呼ばれ、そこからその独特の青色を「ウルトラマリン・ブルー」と呼ぶようになったそうです。
また、中国では紀元前から装飾品に使われており、日本へ伝わった後は日本画の材料である岩絵の具として用いられ、瑠璃色や群青色と呼ばれていました。
ラピスラズリの顔料は、エジプトのツタンカーメン王のマスクや、17世紀のオランダの画家フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」に使用されていることでも有名ですね。
絵画の中で少女が纏った青いターバンに使用された青色はフェルメールが数々の作品で使用し象徴的だったことから「フェルメール・ブルー」とも呼ばれていたそうです。
ラピスラズリと見た目が似ている鉱物
ラピスラズリに見た目が似ている鉱物が幾つかありますので、ココでご紹介しましょう。
ソーダライト(方ソーダ石)
ラピスラズリを構成する主要鉱物の一つであるソーダライト。見た目がよく似ていることから混同されることが多くあるといいます。
ソーダライトには真鍮色のパイライトの粒子はほとんど含まれず、比重も小さくなります。
ラピスラズリと比較すると濃く、紫に近い色をしており、白いカルサイトの脈が入っています。
ナトリウム(ソーダ)を多く含むことから「ソーダライト」と呼ばれており、ラピスラズリよりも価格は安めのものが多い印象です。
ラピスラズリに似た不透明のものが一般的ですが、中には透明度の高いものもあり、それらは価値高く扱われます。
アズライト(藍銅鉱)
アズールブルーと呼ばれる、独特の美しい青色が特徴的です。
ラピスラズリと同様に古来から顔料として使用されてきましたが、アズライトはラピスラズリより安価で入手できたといわれています。
水に触れると炭酸分が抜け出し、緑色のマラカイトに変化するという特質をもつため、青かったはずの青空が知らない間に緑色になってしまったという絵画も残っているそうです。
ラピスラズリを構成する鉱物
前述したとおり、ラピスラズリは、複数の鉱物が混合して出来た岩石です。
主要成分であるラズライトをはじめ、アウィン、カルサイト、パイライトなどを含んでいます。上の項目で紹介したソーダライトもそのひとつです。
ラピスラズリを構成している、ソーダライト以外の、主な4つの鉱物についてもご紹介しましょう。
ラズライト
ラズライト(青金石/せいきんせき)はカルシウムとナトリウムを含有するアルミノ珪酸塩鉱物で、ラピスラズリの主成分である鉱物です。
ラピスラズリとして出回ることが殆どで、ラズライト単体として販売されているものはあまり見かけたことがありません。
ラピスラズリの鉱物名がラズライトとなることからか、鉱物名をラズライト、宝石名がラピスラズリとしている書籍もあるようです。
同名のラズライト(Lazulite/天藍石)という宝石がありますが、二つは全く別の鉱物です。
アウィン
アウィン(藍方石/らんぽうせき)は方ソーダ系に属する珪酸塩鉱物です。
鮮やかなネオンブルーをした「アウイナイト」の宝石名で知られています
ラピスラズリを構成する鉱物としても有名ですが、単体としても宝石品質のものは産出地が限られていることもあり、レアストーンとして注目されています。
モース硬度が5.5 – 6とあまり硬くないため、取り扱いに注意が必要な宝石です。
結晶は透明~半透明で青色、灰色や赤色、緑色、黄色味を帯びた白色などがあります。
パイライト
パイライト(黄鉄鉱/おうてっこう)は鉄と硫黄からなる鉱物です。
ゴールドまたは真鍮色をしており、金属のような見た目をしています。
青いラピスラズリに黄金色のパイライトが混ざることで、夜空に星がきらめくような輝きを表します。
結晶はキューブ型や六面体、八面体で、モース硬度は6 – 6.5です。
カルサイト
カルサイト(方解石/ほうかいせき)は炭酸塩鉱物の一種で、無色、白色、淡い黄色をしています。
モース硬度が3と軟らかく、3方向に極めて完全に割れる劈開(へきかい)の性質をもちます。
複屈折率が高いことから、文字を書いた紙の上などに置くと、文字の線が2重に見えます。
大理石としても使用されています。
ラピスラズリの偽物
ラピスラズリは、本物の一部や他の鉱物を使って人工的に作った模造石も多く流通しています。
事実をきちんと表記し、消費者が誤解を受けないような説明とともに販売しているものを、理解し納得した上で購入する分には問題ありませんが、天然のラピスラズリとして販売されていることもあると聞きますので注意が必要です。
それでは、代表的な3つの模造石についてご説明していきましょう。
張り合わせ石
安価な石に宝石の薄い板片を張り合わせた模造石で、ダブレットとも呼ばれます。
通常はラピスラズリの薄片を安価な石やプラスチックに張り合わせますが、中にはターコイズを張ったたものなどもあるようです。
張り合わせ石は横から見ると、張った部分の境界線が見えます。
着色石や染色石
全く別の鉱物に着色や染色をしたものです。
一般的に使われるのは白い鉱物のハウライトやマグネサイトです。
ハウライトやマグネサイトは軟らかく表面が微多孔質であるため、色が定着しやすいのだそうです。
ターコイズの模造石として出回っているものも多いといわれています。
「ハウライトラピスラズリ」「ハウライトターコイズ」として販売している場合も多いようです。
練り石
「ボーンズ」と呼ばれるもので、ラピスラズリの粉末を樹脂などで固めたものです。
この方法は「練り加工」と呼ばれ、ターコイズにも使われることが多いといわれている手法ですね。
ラピスラズリの粉末を材料にするため、真偽の見分け方が難しくなります。
ラピスラズリ特有の群青色や深い紺色ではなく、青色があまりにも鮮やか過ぎる場合には練り石である疑いが強くなります。
ラピスラズリ価値基準と選び方のポイント
価値基準
高品質のものが多いといわれるのはアフガニスタン産で、紫味のあるブルーで少しダークなトーンをしています。ブルーが石全体に広がり、パイライトやカルサイトはほとんど含んでいないものが多いそうです。
一般的に良質と評価されるものは、深みのある濃い青色で真鍮色のパイライトと白いカルサイトの小片をバランス良く含んでいます。
なお、ラピスラズリは産地特定ができない宝石です。
それぞれについてもう少し詳しくご説明しましょう。
天然であること
前述したように、ラピスラズリは模造石が多く流通しているため、天然石であることが大切です。
人工的に染色・着色が施されたものやダブレットなどの模造石には、ラピスラズリとしての価値はありません。
色
ラピスラズリ特有の瑠璃色が石全体にムラなく広がっていることが条件です。
ラピスラズリの瑠璃色は、紫味が強いほど価値が上昇し、緑味があるほど価値が下がるといわれます。
ブルーの色調は淡過ぎずダーク過ぎず、中間から少しダークな位の明るさが良いとされます。
内包物
濃い瑠璃色に真鍮色のパイライト(黄鉄鉱)と白色のカルサイト(方解石)の小片をバランス良く含むものが高く評価される傾向にあります。
ただし、パイライトが多すぎたりカルサイトの白い班がある場合には逆に価値が下がってしまうそうです。
ラピスラズリの選び方のポイント
前述したように、まずラピスラズリが天然であることを確認しましょう。
美しい瑠璃色が石全体にムラなく広がっているか、パイライトやカルサイトが多すぎないかを見ることも大切です。
色の好みは人それぞれですが、高品質のものをお望みであれば、上の項目で述べた価値基準を参考にされると良いでしょう。
買物の際には信頼のおけるお店を選び、鑑別書があれば記載されている事実をしっかりと確認しましょう。
どこで買える?
ラピスラズリは宝石を扱っているお店であれば比較的多くのお店で売っている印象があります。
ネットショップでも実店舗でも取り扱いのあるお店は多いのではないでしょうか。
但し、前述したとおり偽物も多い宝石ですので、特にネットショップなどを利用する場合は、事前に購入者の口コミをチェックしたり、色々調べた上で購入することをお勧めします。
お手入れ方法
ラピスラズリは高熱や高圧、酸・アルカリなどに弱い鉱物です。レモン汁などの酸によっても変色してしまいます。
さらにモース硬度が5‐5.5と軟らかめであるため、取り扱いには注意が必要です。
ジュエリーとして着用する場合には衝撃を与えないように気をつけましょう。また、プールや温泉に入る場合は必ず外すようにして下さいね。
着用後は柔らかい布で簡単にふき取るだけで十分ですが、汚れが目立ってきたら中性洗剤を溶かしたぬるま湯の中に入れ、柔らかい歯ブラシなどで汚れを落とします。泡を完全に洗い流したら、乾いた布でしっかりと乾燥させましょう。
超音波洗浄機を使うと破損の恐れがあるため、避けるようにしてください。
保管する際には個別の箱や袋に入れ、高温多湿になりやすい場所を避けて置くようにします。
最後に
歴史の長いラピスラズリは古来から装飾品や絵画に使用され、素晴らしい芸術品として現代に引き継がれてきました。
12月の誕生石として人気の宝石ですが、偽物も多く出回っているので注意が必要です。
硬度が低く酸などにも弱いので、着用や保管する際には大切に扱ってくださいね。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『楽しい鉱物図鑑』
著者:堀秀道/発行:草思社
◆『パワーストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社