強い輝きと美しい煌めきを発する宝石クリソベリル。
クリソベリルとして市場に出回ることは少ないため、あまりその名は知られていないかもしれませんが、古くから採掘されている歴史のある宝石です。
実は世界五大貴石の一つとして有名なあの宝石もクリソベリルの一種です。
こちらでは、クリソベリルの特徴や変種、価値基準の他、ロンドンの自然史博物館が所蔵する45カラットの巨大なクリソベリルについてなどをお伝えしていきます。
目次
クリソベリルとは?
クリソベリルはベリリウムとアルミニウムの酸化鉱物です。
ヨーロッパでビクトリア期~エドワード期にかけて流行したといわれ、その時代のアンティークジュエリーにも多く見られます。
クリソベリルとして流通するものよりも変種の方が多く流通し、知名度も高いです。
では順番に詳しく見ていきましょう。
鉱物としての基本情報
英名 | Chrysoberyl(クリソベリル) |
和名 | 金緑石(きんりょくせき) |
鉱物名 | クリソベリル |
分類 | 酸化鉱物 |
結晶系 | 斜方晶系 |
化学組成 | BeAl2O4 |
モース硬度 | 8.5 |
比重 | 3.68 – 3.73 |
屈折率 | 1.74 - 1.75 |
光沢 | ガラス状 |
特徴
クリソベリルはモース硬度が8.5とダイヤモンド、コランダム(ルビー、サファイア)に次いで高く、耐久性にも優れているため、ジュエリーとしても楽しむことができます。
ファセットカットすると強い輝きを示し宝石としての魅力も十分です。
前述したように、クリソベリルとして流通するものより、特徴的な性質をもつ変種の方が多く流通している印象があります。
その代表的な宝石は2つあり、一つが光源によって異なる色合いを見せるアレキサンドライト。
もう一つは、キャッツアイ効果をもつクリソベリルキャッツアイです。
この2つについては後ほど詳しくご紹介しますね。
また、結晶が花びらのような個性的な形を成すものもあり、これらはコレクターからも人気です。
色
クリソベリルは主にイエロー、グリーン、褐色の他、イエローグリーン、ミントグリーン、緑褐色、グレー、黒灰色、カラーレスなど多くの色を呈します。
イエローは微量の鉄を含むことを起因としますが、そこにわずかなクロムを含むとグリーンが加わり、より鮮明な発色になると考えられています。
また、鉄の含有量が増すとオレンジ色や褐色に、バナジウムを含むとミントグリーンになるそうです。
産地
主な産地は、ブラジル、スリランカ、インド、ロシア、タンザニア、マダガスカル、モザンビークなどです。
スイス、カナダ、ケニア、ジンバブエからも見つかることがあります。
ちなみに、クリソベリルキャッツアイはインドやスリランカ、アレキサンドライトはかつてはロシアで多く産出されましたが、現在はブラジル、スリランカ、タンザニアなどが主な産地です。
原石の形
クリソベリルは、花崗岩ペグマタイトや片麻岩、雲母片岩、大理石の中で生成されます。
河川の砂礫の中から見つかることもあります。
結晶は透明~半透明をしており、ガラス状の強い光沢を見せます。
劈開は明瞭~不明瞭、断口は貝殻状~不平坦です。
結晶の形は斜方晶系で、卓状、心臓状、短柱状、六角板状(疑似六角柱状)の双晶などをしています。
2つの結晶が結合したV字双晶、3つの結晶が結合して六角形を示す3連輪座双晶なども見られます。
3連輪座双晶は外側が六角に分かれており、花びらのような形をしています。
金平糖みたいな印象で、コレクションとして大切にしたくなるような、どこか愛嬌みたいなものさえ感じる気がします。
名前の意味
クリソベリルは、19世紀のヨーロッパで珍重された宝石です。
クリソライト(Chrysolite)と呼ばれていたこともあったようですが、昔は鉱物名ではなく、色によって名前が呼び分けられることもあり、ペリドットやトルマリン、ベリルなどと混同されることもあったといわれます。
クリソベリル(Chrysoberyl)という名前も、ベリルの一種であると思い込まれ、光沢がより強いことから、黄金を意味するギリシャ語の「クリソス(chrysos)」に「ベリル(beryl)」を足して名付けられたともいわれています。
和名は金緑石(きんりょくせき)。まさに、黄金の輝きを示す石という意味ですね。
施される人工処理について
クリソベリルは、現在のところ人工処理を施したものが市場に出回っている様子はあまりないようです。
クリソベリルの変種
前述したように、クリソベリルには特徴的な性質をもつ変種が多く存在します。
代表的なアレキサンドライトやクリソベリルキャッツアイ(キャッツアイ)を始め、幾つかご紹介しましょう。
アレキサンドライト
太陽光や蛍光灯の下ではブルーグリーン~グリーン、ろうそくの光や白熱灯の下ではレッド~レッドパープルに変化するカラーチェンジ効果を示す宝石です。
その神秘的な姿に古くから世界中の人たちが魅了されてきました。
アレキサンドライトは、1830年にロシアのウラル鉱山で発見され、後のロシア皇帝アレクサンドル2世の12歳の誕生日であったことから、その名が付けられたと伝わります。
現在ではロシアからは殆ど産出されず、高品質のものは主にブラジルから産出されるといわれています。
アレキサンドライトのカラーチェンジ効果は、含まれるクロムとバナジウムの影響によるものと考えられています。
光の種類によって吸収される色が変わるため、人の目に違う色に映るのだそうです。奥深いですね!
クリソベリルキャッツアイ
カボションカットを施し光を当てると、表面に一筋のラインを見せるキャッツアイ効果(シャトヤンシー)を示すものです。
アレキサンドライトと共に、クリソベリルの中では人気も価値も高い種類です。
透明~半透明で地色は乳白色、ハチミツの色に似たレモンイエロー、アップルグリーン、オレンジブラウンなどがあります。
キャッツアイ効果の要因は、平行して並んだ針状インクルージョンや、水路状、羽毛状の液体内包物などによるものと考えられています。
ギリシャ語で「波打つ」の意味をもつ「サイモフェーン(Cymophane)」と呼ばれることもあるそうです。
キャッツアイ効果をもつ宝石は他にも、エメラルドキャッツアイやクォーツキャッツアイ、オパールキャッツアイなど数多くありますが、単にキャッツアイと呼ばれる場合はクリソベリルキャッツアイを指すことが多いようです。
アレキサンドライトキャッツアイ
キャッツアイ効果とカラーチェンジ効果を同時に見せるアレキサンドライトキャッツアイ。
キャッツアイ効果を見せるため、主にカボションカットが施されます。
パロットクリソベリル
パロットクリソベリルは、蛍光性を感じるライムグリーンのクリソベリルです。
パロットとは英語で鳥のオウムを意味します。
パッと明るいグリーンの発色がオウムの羽根の色を思わせることから、こう呼ばれるようになったそうですが、コマーシャルネームのため、鑑別書の名前はクリソベリルになります。
パロットクリソベリルは主に、1990年代後半から2000年代前半の短期間に、インドのオリッサ州のチンタバリ鉱山で産出されたといわれています。
市場に出回り始めた頃は比較的安価で取引されていたそうですが、採掘期間が短く産出量も限られていたことなどもあり、現在では希少価値が上がっています。
クリソベリルの偽物について
合成石やガラスなどが、クリソベリルとして販売されていることがあるといいます。
はっきりと「合成石」「人造石」「ガラス」などと明記して販売する場合は問題ありません。
しかし、これらを天然のクリソベリルやアレキサンドライト、クリソベリルキャッツアイと偽って販売している場合があるので注意が必要です。
有名なクリソベリル
Photo by : Giovanni G / Shutterstock.com
「ホープ・クリソベリル(Hope Chrysoberyl)」と呼ばれる、有名なクリソベリルがあります。
イエロー味を帯びたグリーンで、オーバル・ブリリアント・カットが施された45カラットという大きさのクリソベリルです。
所有していたのは、19世紀初頭に宝石をコレクションしていた裕福な英国人の銀行家、ヘンリー・フィリップ・ホープでした(正確には父のトーマス・ホープから引き継いだもの)。
ホープ氏はかの有名な「ホープ・ダイヤモンド」を一時期所有し、その名前の由来となったことでも知られている人物です。
その後このクリソベリルは後継者のフランシス・ホープに引き継がれましたが、ホープ氏が破産したことから1866年に売却されました。
その後ロンドンの自然史博物館に売却され、現在も同博物館が所蔵しています。
クリソベリルの価値基準と市場価格
クリソベリルの購入をお考えなら、事前にある程度の知識があると探しやすいと思います。
クリソベリルの一般的な価値基準や市場価格、買える場所などを、簡単にご説明しますね!
価値基準
クリソベリルは、全般的に色が濃くて鮮やかほど価値が上がります。
加えて、インクルージョンやキズが少なく、透明度が高いもの、プロポーションが美しくバランスの整ったカットであるもの、カラット数が大きいものも評価の対象になります。
アレキサンドライトの場合は、上記に加えカラーチェンジ効果が明瞭なものほど評価が高いとされます。
クリソベリルキャッツアイ(キャッツアイ)の中で最も高く評価されるのは、ミルクアンドハニーと呼ばれる、蜂蜜色と乳白色のような色合いが猫目ラインを中心に分かれているものです。
次いでアップルグリーンのものが人気が高く、キャッツアイがハッキリと現れるもの程、価値高く扱われます。
最も価値が高い種類は?
クリソベリルの中で最も価値が高いのはアレキサンドライトです。
次いで、クリソベリルキャッツアイ、パロットクリソベリルと続きます。
市場価格
一般的なクリソベリルはルースであれば、数千円~販売されており、高品質でカラットの大きいものでも数万円程度のものが多い印象です。
パロットクリソベリルになると、全般的に価格が上がりますが、1ctまでのルースであれば一万円以下でも入手可能です。
クリソベリルキャッツアイもクォリティや大きさによっては一万円以下で探すことも可能ですが、最高品質といわれるミルクアンドハニーで、トップクォリティのものとなると数百万円を超えるものもあります。
日本ではまだそれ程認知度が高くないクリソベリルキャッツアイですが、海外では人気が高く、特にメンズジュエリーとして多く用いられ、愛用されている様子です。
クリソベリルの中で最も価値高いとされるアレキサンドライトについては、トップクォリティでカラーチェンジ効果が分かりやすいものは、ルースでも一千万円以上するものもあります。
どこで買える?
クリソベリル、クリソベリルキャッツアイ、アレキサンドライトについては、レアストーンの取り扱いの多いお店であれば、ルースでもジュエリーでも見つけやすいと思います。
パロットクリソベリルも、最近オンラインショップやミネラルショーなどのイベントを中心に見かけることが増えた気がします。
クリソベリルやクリソベリルキャッツアイは、18世紀~19世紀頃に作られたアンティークジュエリーに多く使われていることから、そういったものを探しても良いと思います☆
クリソベリルのお手入れ方法
モース硬度が高く耐久性があるクリソベリルは、ジュエリーとしても扱いやすい宝石です。
とは言え、強い衝撃を加えるとダメージを受ける恐れがあるため、着用の際には注意が必要です。
使用後は、柔らかい布で拭いてからしまう癖をつけると良いでしょう。
汚れが目立ってきたら、中性洗剤を薄めたぬるま湯の中に入れ、柔らかい歯ブラシなどで汚れを落とします。泡をキレイに流したら、柔らかい布でしっかりと水分を拭き取りましょう。
超音波洗浄機でのクリーニングも可能です。
他の宝石にキズを付ける可能性があるため、保管する際には個別の袋や箱に入れて、湿気や直射日光を避けた場所に置かれることをオススメします。
最後に
クリソベリルは高い耐久性をもち、美しい色と強い輝きで古くから人々を魅了してきた宝石です。
18世紀~19世紀のヨーロッパでは豪華なジュエリーにセッティングされ、現在もアンティークジュエリーとして素晴らしい作品の数々が残されています。
神秘的な効果を見せるアレキサンドライトやクリソベリルキャッツアイも、コレクターから定着した人気があるようです。
ぜひ多彩な魅力あるクリソベリルに注目してみて下さいね。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版発行
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか