晴天の澄み渡る空のような水色が特徴的な宝石、ターコイズ(トルコ石)。
ターコイズは12月の誕生石です。
12月の誕生石には他に、タンザナイト、ラピス・ラズリがあります。
どれも「ブルー系」の美しい宝石ですね。
ターコイズの産地や石言葉、壮大な歴史、究極のターコイズ「スリーピングビューティー」についてなどなどご紹介していきます!
目次
ターコイズ(トルコ石)の基本情報
英名 | Turquoise(ターコイズ) |
和名 | トルコ石 |
鉱物名 | ターコイズ |
分類 | リン酸塩鉱物 |
結晶系 | 三斜晶系 |
化学組成 | CuAl6(PO4)4(OH)8・4H2O |
モース硬度 | 5 – 6 |
比重 | 2.40 – 2.85 |
屈折率 | 1.61 – 1.65 |
光沢 | 蝋状光沢~無艶 |
原石の形
ターコイズは、地下に浸透した酸性の水溶液に溶け込んだ成分からできていると考えられています。
主に低温条件下の土壌で生成し、腎臓状、塊状、皮殻状、団球状、隠微晶質など多様な形で産出されるといいます。
一般的に鉄分を多く含む砂岩やリモナイト中に生成し、黄鉄鉱や褐鉄鉱を含むことが多いといわれています。
そうした不純物(別の鉱物)が表面に斑点状や筋状に現れることも多く、アメリカで採れる、蜘蛛の巣状の模様が入ったものなどはインディアンジュエリーにもよく使われ、人気があります。
またターコイズは地表に近い地層の中に蜘蛛の巣のような層状で生成されるといいます。
何だかターコイズは蜘蛛と何かと縁の深い鉱物なのかもしれませんね。
名前の意味
「ターコイズ」という名前は、フランス語のpierre turquoise =「トルコの石」に由来しているといわれています。
13世紀頃からこの名称が使われ出したようです。
ですが、その名の示す「トルコ」では産出されていません。
諸説あるのですが、一つにターコイズが中東からヨーロッパへ渡る際、トルコが貿易経由地だったためこの名前が付いたという説があります。
産地であった古代エジプトでは、ターコイズは「メフカト」(喜び・楽しみ)と呼ばれていたそうです。
ちなみに、ターコイズは一つの鉱物を指す名前ではなく、6つの鉱物種から成るグループ名だそうです。
産地と各地のターコイズの特徴
ターコイズ(トルコ石)の産地の特色として、まず非常に乾燥した地域である事が挙げられます。
古代エジプトのシナイ半島、ペルシャ(現在のイラン)といった中東地域、アリゾナ州など米国の南西部、多くの宝石を産出する中国(チベットを含む)でも古くから採掘されてきました。
各地で採れるターコイズの特徴と簡単な歴史をご紹介しますね。
なお、ターコイズ(トルコ石)は産地鑑別ができない石です。
一般的にいわれている産地別の特徴ではありますが、その特徴があるからその産地のものという証明はできませんのでご注意くださいね。
中東
6000年前という古代から、美しくクオリティーの高いターコイズの産出地として知られています。
ペルシャ(現在のイラン)、シナイ半島(エジプト)で古くから採掘されてきました。
特にペルシャ(イラン)のある地域から採れるターコイズは、スカイブルーから濃いブルーで、硬度が高く、耐久性に優れている上に変色もしにくい、まさに高品質と呼べるものが多いといわれています。
しかし現在イランでは、100カ所の鉱山が既に閉山されてしまったらしく、近年良質のターコイズが再発見されたという「ケルマン地域」での採掘量に注目が集まっているといわれています。
中東では、色が均一で水色やブルーのターコイズが古くから人気があるそうです。
アメリカ南西部
アメリカでは、カリフォルニア州、ネバダ州、コロラド州、アリゾナ州、ニューメキシコ州と、主に西および南西部で採掘されてきました。
アメリカ南西部はアメリカン・インディアンが古くから住む地域です。
今ではターコイズの枯渇によって米国の鉱山の多くは閉山されていますが、現地へ行くと、アメリカン・インディアンが制作したターコイズジュエリーを売るお土産屋さんが軒を連ねています。
日本でも人気がありますので、シルバーとターコイズで作られたインディアンジュエリーが販売されているのを見かけた事がある方も多いのではないでしょうか。
中東のターコイズと異なり、蜘蛛の巣の様な模様(スパイダーウェブやスパイダーネットと呼ばれています)をもつものが多く、特徴的です。
中国
中国・チベットでも古くからターコイズが産出されています。
チベットでは緑色がかったターコイズが好まれてきたといわれています。
中国産のターコイズは比較的やわらかく、彫刻がほどこされる事が多いそうです。
ターコイズの色
ターコイズは、半透明~不透明な水色が特徴的な宝石です。
「ターコイズブルー」というと、誰もが何となく思い浮かべることができる印象深い色ではないでしょうか。
この水色、ターコイズブルーは、ターコイズに含まれる「銅(Cu)」に起因していると考えられています。
また、産地によっては緑色がかったターコイズが多く産出される所もありますが、それは「鉄(Fe)」の影響だといわれています。
つまり「鉄」が多く含まれていると、「緑色」がかったターコイズになるのだとか。
中には鉄がとても多く含まれることから、黄緑色をしているターコイズもあるそうです。
ちなみに、ティファニーという世界的に有名なアメリカのジュエリーブランドのカンパニーカラー、「ティファニーカラー」というとどんな色を想像しますか?
・・・ターコイズのもつあのブルーではないでしょうか?
実は、ティファニーブルーは春の訪れを告げるロビンの卵の色が由来といわれているようですが、ターコイズのトップカラーもまた、そのロビンの卵の色といわれているそうです。
なので、ティファニーカラー=ターコイズブルーと想像するのも無理のない話なのですね。
ターコイズの歴史
ターコイズは古くから採掘され、宝飾品として愛されてきた、歴史ある宝石の一つとして知られています。
特に、イラン(旧:ペルシャ)やエジプトでは6000年前から装飾品にする目的で採掘されていたという記録が残っており、特にイランでは、名実ともに国を代表する宝石だったといわれています。
実際、第一次世界大戦以前までは、ターコイズはイランの主な輸出品でもあり、ジュエリーとしてのみならず、王座や短剣、馬具など、あらゆるものに使われていたと記録されています。
古代ペルシャでは中東地域の主な宗教でもあるイスラム教の教え、「コーラン」をターコイズに彫り込み、金を埋め込んだ大変美しい装飾品として大切にされていたという記録もあるそうです。
また、有名なところで、古代エジプトのツタンカーメン王の黄金マスクにもターコイズが使われているといわれていますよね。
他にも、中東地域では、装飾品として使われる以前から、「天空神」に捧げる神聖な石として、深遠で宇宙観をもったコバルトブルーの宝石、ラピス・ラズリとともに使われていたといわれています。
一方、アメリカ合衆国西・南西部でも、古くからターコイズは産出され、多くの人に愛されてきました。
ネイティブ・アメリカン達にとってもまた、ターコイズは神聖な石として特別に扱われていたのです。
例えばナバホ族は粉々にしたターコイズを雨乞いの儀式に使っていた、とか、アステカ族ではこの石には魔力があり持ち主に危険が迫ると色が褪せると信じられていたなどという言い伝えも残っているそうです。
中東と南米・・地理的に遠く離れており、きっと互いに交流もなかったであろう時代にも関わらず、其々に「神聖な石」として大切にされてきたとは不思議ですよね。
一説では、それはターコイズがもつ鉱物としての特徴や結晶構造上から生じる現象に、古代の人々が神がかり的なパワーを感じたためではないかと推測されているようです。
ターコイズ(トルコ石)の偽物について
人気な宝石の例外に漏れず、ターコイズにも「ニセモノ」が多く存在します。
別の鉱物をターコイズとして販売されていることもあれば、ガラスなどで作った全くの偽物もあります。幾つかご紹介しましょう。
別の鉱物
この画像の宝石、実はターコイズではありません。
これは「ハウライト」という白い鉱物を、ターコイズに似せて青く染色したものです。
「ハウライトターコイズ(ハウライトトルコ)」として販売されているものも多いそうですが、中には「ターコイズ」として販売されるケースもあると聞きますので、注意が必要です。
他にも、マグネサイトという石を青く染色したものも多く出回っているようです。
※詳しくはハウライトの記事を参考に。
全くのニセモノ
中にはガラスやプラスチックがターコイズとして売られているケースもあると聞きます。
実際のところ、ガラスやプラスチックはさまざまな宝石の模造品として市場に出回っています。
プラスチックは鉱物と比べてとても軽いので、手に持って重さを感じてみるのも一つの判断方法だといわれています。
しかし本物の重さを知らないと気が付くこともできない、というのもまた事実です。ニセモノを知るためにまずは本物を知ることも大切だと思います。
特に均一で色の深い、美しいターコイズは貴重です。
極端に安い物に気をつけることはもちろんですが、相場より高すぎることもまた問題です。
まずは信頼のできるお店であるかどうかや本物と偽物の違いなど、購入する前に色々調べてみることも大切です。
自分を守る術も身につけて、賢く買い物してくださいね。
※模造石や人造石自体が悪い訳ではありません。悪いのは業者が事実を隠して高額に売ることです。事実がきちんと明記し販売されているものを消費者が納得して購入するのは問題ありません。
ほとんどのターコイズには処理がされている?
ターコイズは非常に乾燥した地域で産出されていますが、成分の 「CuAl6(PO4)4(OH)8.5H2O」の最後に
H2Oと記されているように、水分を含んでいます。
その水分は、採掘された後、徐々にターコイズの中から消えていきます。
多孔質といいますが、その性質のため、耐久性が低くなったり、汚れを吸着しやすくなったり、変色してしまうことも多くあります。
それゆえ昔から、ターコイズの耐久性と質を安定させるべくさまざまな処理が施されてきました。
昔は、無色のオイルやワックスをターコイズの表面に含浸させる処理が一般的でしたが、オイルなどが溶け出てしまうのが難点でした。
現在は、スタビライズ法、ザッカリー処理と呼ばれる化学処理法、染色処理法、再生処理法という処理法などが使われています。
ターコイズの場合、一部を除き殆どのものに何らかの処理が施されているといって良いでしょう。
処理というとネガティブなイメージをもたれる方もいらっしゃるかもしれませんが、多孔質で時間が経つと変色することが多く、脆さをもつターコイズにとって、こういった処理は美しさを保つために不可欠といっても過言ではないと思います。
スタビライズ法
オイルやワックスよりも長持ちする”エポキシ樹脂”や”アクリルプラスチック”を含浸させる処理法です。
日本で流通しているターコイズのほとんどがこの処理を施されているといわれています。
原石の段階で処理をほどこし、研磨もしやすくなります。
無色の含浸ですが、染みこむ事によって元の色よりも濃くなるそうです。
ザッカリー処理法
ターコイズの彩度や硬度も向上させるという目的で開発された、化学処理法です。
80年代にターコイズの商人、ジェームス・ザッカリーによって編み出されました。
ケイ酸ソーダの水溶液にカリウムを溶かしたものにターコイズを浸し、浸透させます。
元の色よりもかなり濃くなるといわれています。
染色処理法
有色の透明材を含浸させることで色をはっきりと見せる方法です。
この処理がほどこされたターコイズは、一見して不自然な感じがするものが多いです。
再生処理法
ターコイズの粉末や小さな粒石を樹脂で練り固めたものです。
イメージでいうと・・”かまぼこ”の様な、「練り物」でしょうか。
「再生トルコ石」とも呼ばれます。
安い価格で売られている事が多いです。
ターコイズを買う前に知っておきたいこと
ターコイズの価値基準
ターコイズは、産地や鉱床という自然条件によって、色、硬度、含有物による模様など、その表情が異なります。
その中で、一般的に高品質とされているものは、マトリックス模様のない、ロビンの卵のようなブルーで、色味が均一のものとされています。
「マトリックス模様がない」ものが良いとされる理由は、ターコイズは「カボションカット」と呼ばれる、ドーム型に宝石研磨される事が多いのですが、研磨される時、不純物が多いと欠ける原因にもなり得るそうです。
そのため耐久性も重要で、不純物(他の鉱物など)が少ない(マトリックス模様がない)方が品質も上がる傾向にあるそうです。
ただ、その一方で、スパイダー・ウェブの入ったターコイズを好む消費者も沢山います。
そのため、均一でバランスのとれた美しいスパイダー・ウェブの入ったターコイズの中には、高い価値がつくものもあるそうです。
究極のターコイズ「スリーピング・ビューティー」
前述したとおり、イラン(ペルシャ)で採れるターコイズは、硬度が高く、色が均一なブルーで混じりけがなく、長い期間変色しないクオリティーの高いものが多いとされています。
一方のアメリカ合衆国西・南西部で採れるものは、中東に比べると緑がかっており、もろいチョーク状で低品質のものが多いといわれています。
しかし、アリゾナ州のスリーピングビューティー鉱山で採れたターコイズは、鮮やかで均一なブルーをした、最高品質のものといわれ、一つのブランドのように扱われています。
「スリーピング・ビューティー」とは「眠れる森の美女」のこと。
グリム童話で知られているあの物語の、美しく可憐な主人公ですね。
スリーピング・ビューティー鉱山は、遠くから見ると女性が横になり眠っている様な形をしている事から、こう名付けられたそうです。神聖で美しいターコイズが眠る山にふさわしい名称だと思います。
前述したとおり、ターコイズの価値基準の一つとして、マトリックス模様がないもの程価値高く扱われる傾向があります。
スリーピングビューティー鉱山で産出されたターコイズがまさにそれで、ターコイズの中で最高級と称される理由はそこにあります。
しかし、そのスリーピングビューティー鉱山も、米国の多くのターコイズ鉱山同様、採掘し尽くし枯渇したため、2012年に閉山されてしまいました。
現在スリーピングビューティーは、最高品質で均一なブルーをもつターコイズの代名詞のように使われています。
市場価格と買える場所
ターコイズは流通量が多いため、全体的に低価格なものも多い印象です。
天然石を扱っているお店やパワーストーンのお店はもちろん、インディアンジュエリーやシルバーアクセサリーに用いられることも多いことから、アクセサリーや雑貨の扱いが多いお店でもよく見かけます。
天然石のお店やイベントなどで、ビーズ状で連なった形で安く販売されているものも多いですね。
価格はまさにピンキリで、数百円のビーズから高級ブランドの数十万円のジュエリーまで幅広く流通しているように思います。
ただ、安いアクセサリーなどは再生処理された練りターコイズやスライスされたものが表面に薄く貼っているだけのものもあります。
天然ターコイズを楽しみたい方は気をつけた方が良いかもしれません。
ターコイズのお手入れ方法
ターコイズは酸に弱いため皮脂や汗が付いた状態で放置すると変色したり、外観を損ねたりする原因になりかねません。
セーム革のような柔かい布で拭くだけである程度の汚れは防げますので、身につけた後は拭いてからしまうことを習慣付けると良いでしょう。
汚れが目立つ場合でも、性質上、中性洗剤や石鹸を溶かしたぬるま湯で洗うのはあまりオススメできません。
ぬるま湯で軽く湿らせた布で拭く程度が安心かと思います。
またターコイズは、前述したとおり、耐久性と質を安定させる目的で何らかの処理が施されることが多い宝石です。
表面に施された処理が剥がれてしまう恐れがありますので、超音波洗浄器やスチームクリーナーは絶対に使用しないで下さい。
熱、科学薬品に弱いという特性もありますので、ドライヤーの熱が直接当ったり、香水や化粧品などが付かないような注意も必要です。身支度を終えた後でつけると良いですよ。
最後に
人類と宝石の関わりのなかでも、非常に古い歴史をもつターコイズ。
ターコイズの歴史を紐といてみると、古代から多くの人々に尊ばれ、愛されてきた宝石だという事がわかりました。
産出される地域によって、異なる色や美観をもつものが好まれてきたという事実も面白いですね。
それでも、共通している事・・どの地域でもターコイズが「神聖な石」として珍重されてきたこと。
世界各地で神秘的な偶然や共通点があることも、ターコイズの魅力の一つかもしれないですね。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『宝石と鉱物の大図鑑 地球が生んだ自然の宝物』
監修:スミソニアン協会/日本語版監修:諏訪恭一、宮脇律郎/発行:日東書院
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版発行
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『岩石と宝石の大図鑑』
監修:ジェフリー・E・ポスト博士/著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:青木正博/発行:誠文堂新光社 ほか
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◆https://www.gia.edu/