TBSテレビ「マツコの知らない世界」に出演されたことのある、エメラルドハンター清水雅弘氏をご存知でしょうか。
マツコ・デラックスさんとのやり取りも面白かったですが、清水氏が語る、コロンビア産エメラルドの魅力や採掘にまつわるお話の数々にご興味を持たれた方も多かったことと思います。
先日、カラッツ編集部はその清水氏とお会いする貴重な機会に恵まれ、エメラルドハンターとしての仕事、エメラルド買付において体験した怖い話、清水氏がコロンビア産エメラルドにこだわる理由などを伺ってきました!
清水氏が語るコロンビア産エメラルドの世界をぜひお楽しみ下さい。
目次
清水氏がエメラルドハンターになったきっかけ
清水氏がこの世界に入ったのは、今から30年程前のこと。
宝石会社に入社し、業務の一環として海外買付けに行くこととなり、宝石商の仲間入りをしました。
コロンビア産エメラルドとの出会いもその頃で、当時のコロンビアは今よりもずっと危険に満ちた国だったそうですが、何度も行くなかでその魅力にハマっていかれたのだといいます。
29歳の時に独立しご自身の会社を立ち上げ、現在に至ります。
昔は、ドミニカのラリマー、コンクパール、オパール、トルマリンなどエメラルド以外の宝石も取り扱っていたそうですが、色々経験したなかで、幾つも手を出すよりひとつのものに絞った方が良い、という結論の下、コロンビア産エメラルドに特化した、今の形になったそうです。
エメラルドハンターとしての主なお仕事
清水氏いわく、宝石商は『国際宅急便のようなもの』とのこと。
実際には価値が分からなければ正当な取引はできませんし、顧客のニーズや時代の流れを把握していなければ、上手く売り捌くことは難しいと思います。
清水氏のようになるためには、長い年月と経験が必要であり、売り買いの全てを一人で行い、時には痛い目に合いながら学習した結果の現在の地位ですので、誰でも簡単になれる訳ではないと思います。
ただ、清水氏の中では、海外から物を運んでいるだけの『国際宅急便業務』という感覚が強いのだそうです。
清水氏は買付したコロンビア産エメラルドを日本国内のみならず、中国、香港、タイ、インドネシアなど世界中で販売されています。
コロンビア産エメラルドといえば、最高品質のものが多いことで知られ、世界中でブランド価値が認められているため、世界中何処にでも需要があります。
コロンビアで買付けては色々な国で販売する、それが清水氏の主な仕事内容です。
清水氏は卸売業者という位置づけになるため、エンドユーザーに直接売ることは基本的にありません。
卸売業者や小売店向けに主に販売されています。
国によって分かれる好み、売れる色合い
様々な国で販売されている清水氏に国によって売れる色合いや特徴についても伺ってみました。
まず中国人。
中国人はブランドものを好むところがあり、ムゾー鉱山で採れた、いわゆる「ムゾーグリーン」と呼ばれるものを最も好む傾向にある、とのことでした。
鑑別などでムゾー鉱山産と分かれば、多少色が悪かったりインクルージョンなどが多かったりしても売れることが多いのだそうです。
次に日本人。
日本国内向けに売ろうとする場合、テリがあって輝きがキレイなものを選ばれる業者さんが多いそうです。
色は好みで買われる方が多いため、沢山の色を揃えておくことが大切なのだとか。
そしてヨーロッパ、主にイタリア人とのことですが、
イタリア人は、色が淡くてピカピカしているものが好きな傾向にあるそうです。
色が濃いものを買われることもあるそうですが、ピカピカしていることが重要なようで、提示価格の倍で買ってくれることもあるといいます。
何故コロンビア産エメラルドなのか
コロンビア産エメラルドは他の産地に比べ、圧倒的に色が美しく質の高いものが多いことが一番の魅力だといいます。
また、同じコロンビア産でも鉱山によって色やインクルージョンなど特徴が異なり、知れば知る程奥が深く、それらを見たり聞いたりしながら知っていくことが面白いのだそうです。
これらに加え、前述したように、世界的に認められたブランド価値があることなどがコロンビア産エメラルドに特化して商売されている大きな理由なようです。
一度、ある機関にお願いし、成分を調べてもらったところ、コロンビア産エメラルドは他の産地のものに比べ鉄が少なくクロムが多いという成分結果が出たそうです。
一般的に鉄が多いと黒っぽくなるといわれており、鉄が少なくクロムが多いということは鮮やかで美しいグリーンになりやすい、ということになります。
このように、バイヤーの感覚的目線で見ても、宝石学的目線で見ても、コロンビア産エメラルドの質が高く世界的に人気があることは立証できる、と清水氏。
また、一つの鉱山の中でも10パターン位に分けられるほど違いがあり、サイズ、品質、色味など大きく異なるのだそうです。
石を見たら、鉱山やいつ頃採れたものか大体分かるのだそうですよ。凄いですよね。
そういったコロンビア産エメラルドの奥深さが清水氏の好奇心をくすぐり続けている要因の一つのようです。
コロンビア産と他の産地のエメラルドとの違い
コロンビア産と他の産地のエメラルドとの違いとして
①色合い
②インクルージョン
③質
を挙げられた清水氏。そしてその理由としてよくいわれていることの一つに、『でき方の違い』があります。
でき方の違い
清水氏に伺った話によると、コロンビアは昔ラグーンだったといわれており、所々に水が残っていたり、今でもその名残りを見ることができるといいます。
専門家の話では、かつてとてつもない地殻変動が起こり、大陸プレートと海底プレートがぶつかり大きな力が生じた結果、コロンビアのエメラルドが出来上がったのだとか。
そんな出来上がり方をしたのはコロンビアとアフガニスタン位で、その他は大陸プレート同士のぶつかりなどで出来上がっていることから、特徴なども異なると考えられているそうです。
清水氏いわく、他の産地のエメラルドは同じ鉱物なのに全く別の宝石のように見える程異なり、唯一アフガニスタン産だけがコロンビア産と似ているのだそうです。
ブラジルのようにコロンビアと場所が近くてもでき方が異なり、特徴に違いが見られるといいますから、本当に奥が深い世界なのだなあと改めて思いました。
特徴の違い
また、コロンビア産エメラルドの大きな特徴の一つとしてよく云われるのが、三相インクルージョンと呼ばれる内包物が含まれることです。
かつてコロンビアが海の中にあったため、海水を取り込んだようなインクルージョンが見られるといわれていますね。
また、ザンビア産エメラルドには、コロンビア産に見られるラインのようなキズが少なく、細かい内包物が多い傾向にあるようです。
特に小粒の場合、ザンビア産は色だまりが強くないため、同じようなクォリティやサイズを集めやすいという利点があり、ジュエリーなどに使われることも多いといいます。
コロンビア産で同じことができたら良いのですが、手間や時間、必要経費などを考えるとなかなかやろうと思う人が居ないのだろう、とのことでした。
清水氏が他の宝石を扱わない理由
現在は主にコロンビア産エメラルドのみを取り扱う清水氏ですが、最初にお伝えしたように、かつては他の宝石を扱ったこともあったといいます。
それを辞めた理由は、前述したように、色々手を出すより一つのものに絞った方が良いという結論からなのですが、その具体的な理由としていわれていたことは
①コロンビア産エメラルドは奥が深いため、『本当のエメラルドをどこまでも知ってみたい』という気持ちが強く、他の宝石を見ている余裕がない
②色々手を出すには、資金的にも時間的にも難しいことが多い
③特にルビーやサファイアのような宝石で一流になるためには、それなりの資本が必要。
量買ってなんぼという卸売の世界において、資金がないとそもそも商売が始まらない。
などが主な理由だそうです。
清水氏は基本的に全てお一人でやられているため、アレもコレも手を出して一つ一つが中途半端になるよりは、一つを極めることを選ばれたのではないかと思います。
コロンビアで体験した怖い思い
コロンビアと聞くと、個人的にはあまり治安が良いイメージはないため、今まで怖い思いなどを経験したことはないか、伺ってみました。
薬をもられて30時間意識不明
聞いただけでゾッとするような話ですが。。。
ご自身のアパートで、知り合いから知らない間に自白剤のようなものを飲まされ、意識不明のような状態のなか、財布の場所などを喋らされ、意識が戻った時には家の中がグチャグチャにされていたとか。
宝石などは事務所に置いてあったため無事だったそうですが、現金は残っていなかったとのこと。
事件が起きたのが週末で、月曜日に事務所の人に発見され、そのまま病院に直行し、なんとか無事だったといいます。
タクシー強盗
他にも、夜タクシーに乗ったら違う方向に進まれ、ドライバーに聞いたところ、最初は「道を間違えた」などとごまかされていたそうですが、結局裏道に連れて行かれ、拳銃を向けられた、など。
どちらも命に別状がなかったため不幸中の幸いで済んでいますが、なんとも怖い話ですよね。
今のコロンビアは昔に比べ随分住みやすい国になったようですが、それでも油断をすれば危険な目に遭うこともあると思います。
今後も清水氏が無事に仕事が続けられるよう祈るばかりです。
皆さんももし治安の悪い地域に行かれる場合は、無闇に危険な地域に入らないようにするなど、充分に気をつけてくださいね。
今までで一番大きな失敗とは
今まで経験した中で、一番大きな失敗は、『中がボロボロの原石を買ったこと』だそうです。
どういうことかと言うと。
コロンビア産エメラルドの原石は、外側が硬く一見キレイに見えても、カットしてみたら色が極端に落ちたり、中に大きく空洞が入っているなど、ボロボロだったりすることも多いそうです。
そのため、原石を買って研磨することは、いわばギャンブルのような、大きな賭けなのだそうです。
1ctあたりの単価が安いものは、先に幾つか試し摺りをしてみて問題なければ全部カットするなどの方法を取る場合もあるそうですが、高価な原石だとそうはいかないため、今は高い原石は買わないようにしているそうです。
これについては、どんなベテラン原石商であっても外からでは判断できないことが多く、経験があればOKという話ではないといいます。
成功すれば大きく、一攫千金のようなこともあるようですが、失敗したら損失でしかなく、年々負ける確率の方が上がっていることもあり、清水氏に限らず、原石から買う宝石商が減っているのが現状のようです。
エメラルドハンターになって良かったこと
最後に、『エメラルドハンターになって良かったこと』についても伺ってみました。
最も良いと思うことは、とにかく『毎日が楽しい』ということ。仕事というよりは楽しいから続けているのだそうです。
コロンビアに行って沢山のエメラルドを買うことが楽しくて、一種の中毒のようなものかもしれないと笑われていました。
先程もお話しましたが、清水氏は卸売業のため、選んで数個を買うのではなく、基本的に、ロットで買われます。
ドーンと買われることになるため、買い甲斐はありそうです。
沢山買えば相手も気を良くして良いものを色々出してきてくれそうですから、そういった駆け引きが楽しいというのもあるかもしれません。
この日、取材と同時にカラッツSTORE用に仕入れもさせて頂いたのですが、写真にあるように、次から次へと大きな袋に入ったエメラルドが出てきて、品揃えの多さにとても驚きました。
正直宝石業界は、沢山買うことで相手の信頼を得るようなところがあります。買わなければ見せてさえくれなくなり、信頼関係が崩れかねないため、買わざるを得ないというのも事実だといいます。
時には、帰りの飛行機の中で反省会のような気持ちになることもあるのだとか(笑)。
ちなみに清水氏は、基本全てお一人でやられているのですが、人を雇わない理由は、『全部自分でやりたいから』だそうです。
色々お話伺いましたが、本当にご自身の仕事が好きで、楽しく誇りをもってやられているのがよく分かりました。
最後に
エメラルドハンター清水氏のインタビューの様子をお伝えしました。
聞けばいつまでもどこまでも話続けてくれそうなパワフルさをもった清水氏。
楽しいお話の数々に時間を忘れて長時間付き合わせてしまいましたが、貴重なお話を沢山伺うことができたと思います。
コロンビア産エメラルドと一口にいっても鉱山や採掘した時期によって色合いなどが異なり、とても奥深い宝石だと、何度もおっしゃられていた清水氏。
その奥深さが世間に充分に知られていないことをとても歯がゆく感じていらっしゃるようでした。
そんな奥深さが分かるような具体的なエピソードなども色々とお伝えできたら良かったのですが、もしまた機会があれば、もう少し深掘ったお話も伺い、改めてお話できればと思います。
どうか気長にお待ち下さいね♪
カラッツ編集部 監修