ジルコンと聞くと皆さんはどんな印象を思い浮かべますか?
人造石?
確かに人造石キュービックジルコニアをジルコニアと略して呼ぶことから同一扱いされ、勘違いされることも多いですが、ジルコンはれっきとした天然鉱物。
長い歴史をもち、古くから人類に寄り添ってきた宝石です!
では、ダイヤモンドの代わりに使われる石?
いえいえ、ジルコンはそれだけではありません!
過去にカラーレスのジルコンがダイヤモンドの代替石として注目された時代もあったといわれていますが、代替石で終わらせるのは勿体ない!とても魅力的な宝石なのです。
ということで!
こちらではジルコンの基本情報だけではなく、その魅力や人気のヒミツ、施される処理、価値基準やお手入れ方法など多角的にご紹介していきたいと思います!
この記事を読んで、ジルコンの素晴らしさを知って頂ければ幸いです!
目次
ジルコンとは
冒頭でも少し触れましたが、ジルコンは長い歴史をもち、古くから宝飾品に使われていた宝石です。
カラーバリエーションが豊富で、多くの色合いが楽しめます。
ダイヤモンドに似た強い煌めきが楽しめ、コレクターを中心に人気が高まっている宝石でもあります。
ではもう少し具体的にご説明していきましょう!
鉱物としての基本情報
英名 | zircon(ジルコン) |
和名 | 風信子石 (ひやしんすせき) |
鉱物名 | ジルコン |
分類 | 珪酸塩鉱物 |
結晶系 | 正方晶系 |
化学組成 | ZrSiO4 |
モース硬度 | 6.5 – 7.5 ※ |
比重 | 3.95 – 4.70 ※ |
屈折率 | 1.78 – 1.99 ※ |
光沢 | 亜金剛光沢から油脂光沢 |
※「モース硬度」「比重」「屈折率」はタイプによって異なるため幅があります。
特徴
ジルコンの大きな特徴の一つは、先にもお伝えした、ダイヤモンドに似た強い煌めきが楽しめることにあります。
このことから、古くはカラーレスのジルコンがダイヤモンドの代替石として広く使われるようになったといわれ、意図的にではなく混同されていた時代もあったといいます。
ジュエリーとしても楽しめますが、強くぶつけたり擦ったりすると表面に傷が付く恐れがありますので使用には注意が必要です。
複屈折率が高いことからダブリングが見えることも特徴です。
ジルコンを写真に撮るとファセット稜線が二重に見えるのはこのせいです。
産地
ミャンマー、スリランカ、タンザニア、カンボジア、タイ、オーストラリアなど。最大の産地はオーストラリアです。
原石の形
基本的には四角柱の両端が四角錐になっている形が多いそうですが、短柱状、繊維状の集合体、粒状、礫状などで産出されることもあるといいます。
小さな結晶は、シリカが豊富な火成岩や変成岩、河床礫、堆積岩の中などに広く含まれ、1cmを超えるような大きな結晶はペグマタイトやカーボナタイトなどの岩石から産出されることが多いようです。
名前の意味
ジルコンの名前の由来は諸説ありますが、アラビア語で朱色の意味をもつzarkun(またはzarguin)から由来したというものが一般的です。
ココからjargon(ジャーゴン、ジャルグンなど)となり、現在のジルコン(zircon)になったといわれています。
ちなみにこのアラビア語のzarkun(zarguin)は、古代ペルシャ語で金という意味のzar(ザル)と色という意味のgun(グン)に由来しているともいわれています。
また、色によって異なる名前で呼ばれていたという言い伝えもあり、一部の色がヒヤシンスと呼ばれていたそうです。
そして、和名の風信子石 (ひやしんすせき)はそこに由来するといわれています。
ただその色をレッド系とする説もあれば、イエローオレンジ系とする説もあります。
3つのタイプとその違い
実はジルコンには、大きく分けて3つのタイプがあるといいます。
ジルコンは、ウランやトリウムなど放射性元素を含むことが多いといわれています。
そしてこれらの元素が内部から放つ放射線の影響でジルコン自体の結晶構造が破壊されてしまうことがあるそうです。
この現象をメタミクト化といい、これによりジルコンの色や性質に変化が生じると考えられているということです。
そして、メタミクト化の度合いによって、ジルコンはハイタイプ、ミディアムタイプ、ロータイプの3つに分けられます。
ハイタイプ
結晶の損傷が少なく、完全な結晶構造をもつジルコンをハイタイプと呼びます。
宝石として市場に出回っているものの多くはこのハイタイプに当たり、カラーレス、ブルー、レッド、オレンジ、イエロー、ブラウンのジルコンが代表的です。
ロータイプ
放射線の影響による結晶の損傷が大きく、メタミクト構造になったものをロータイプと呼びます。
性質も変わり、モース硬度、比重、屈折率とも低下します。
グリーン、ダークグリーンなどグリーン系のジルコンが主だといわれています。
ロータイプの宝石品質のものも存在するようですが、ごく稀だということです。
ミディアムタイプ
ハイタイプとロータイプの中間にあたるものがミディアムタイプと呼ばれます。
ロータイプと同様にグリーン系の色合いが多いといわれます。
では、それぞれのタイプのモース硬度、比重、屈折率がどれ程異なるか表にして見てみましょう。
ハイタイプ | ミディアムタイプ | ロータイプ | |
モース硬度 | 7 – 7.5 | 6.5 – 7 | 6.5 |
比重 | 4.67 – 4.70 | 4.10 – 4.60 | 3.95 – 4.10 |
屈折率 | 1.93 – 1.98 | 1.87 – 1.90 | 1.78 – 1.82 |
ジルコンに施される処理について
ジルコンの中で特に人気が高いブルージルコンは一般的に加熱処理が施されているといわれています。
褐色系のジルコンを加熱すると美しいブルーを発色するのだそうです。
中でもカンボジアのラタナキリ州から産出する褐色系ジルコンは、酸素濃度を低くした環境で800℃に加熱するとブルーに、1000℃まで加熱すると無色透明に変化するといいます。
この変化は加熱によって結晶構造が修復されることから起こると考えられています。
結晶構造が修復されるため、ロータイプのジルコンがハイタイプに近い色合いに変化するという訳ですね!
しかしカンボジア以外で採れる褐色系ジルコンを同じように加熱しても色の変化は見られないのだそうです。とても不思議ですよね!
ブルー、カラーレスの他にイエローやゴールド系のジルコンも通常、加熱処理がされているといわれています。
ジルコンの色と種類
ブルーを筆頭に多彩な魅力を魅せてくれるジルコン。中にはバイカラーのものもあります。
透明度が高くファイアが強いことから、カットによっては光の中でよく輝き色んな表情を見せてくれます。
ではジルコンのカラーバリエーションをご紹介しましょう。
ブルージルコン
先にご紹介したように、加熱処理を行うことで、鮮やかなブルーを生み出すブルージルコン。
ジルコンの中で一番人気の高い色です。
カンボジア産のものが多いといわれています。
イエロージルコン
つやつやとした照りと、強い輝きが魅力のイエロージルコン!
イエロージルコンはまさにリッチな輝きが楽しめる宝石です。
太陽の光のような輝きは見ているだけで元気になれそうですね!
少しグリーン掛かったイエローもあります。
ブラウンジルコン
ブラウンカラーのジルコンは、一見地味な印象を受けますが、ジルコン特有のギラギラとしたファイアを放てば強い存在感を感じます。
お酒のコニャックのような色合いのものもあり、また違った雰囲気があり素敵ですよ。
グリーンジルコン
さまざまな色調のグリーンジルコンが存在しますが、ダークグリーンや抹茶色のような少し渋めのグリーンカラーが多いように思います。
先にも述べた通り、ロータイプのジルコンの多くはグリーン系の色合いをもつといわれています。
オレンジジルコン
鮮やかな色合いが麗しい印象のオレンジジルコン。
ブラウンに近いものから鮮やかなオレンジ色のものまで色幅があります。
うるうるとした艶のあるオレンジの地色で特有のファイアを放つ様はいつまでも見つめていられますよ!
ピンクジルコン
ピンクと一口に言っても、レッドに近いピンクから淡く優しい色合いまで幅広いグラデーションがあります。
色合いによって表情が変わるため、グラデーションで集めて違いを楽しむのも面白いと思います!
レッドジルコン
あまり市場に出回ることはないとされるレッドジルコンは、ジルコンの中でも高値で取引されている色です。
少し黒味がかった深いレッドのものも多い印象です。
ジルコンの歴史と地質学上の役割
44億年前から存在しているといわれるジルコン。
地球上で最初に形成された鉱物だと考えられています。
古い遺跡からも発掘されており、レッド系のジルコンは火の石として聖書にも登場します。
2000年以上前からスリランカで採掘され、ギリシャやイタリアでは6世紀頃から宝石として使われてきたといわれています。
ヒンズー教では神様への捧げものを作るのにジルコンが使用されたり、東洋ではジルコンを身につけると知恵や名誉、富などを授かると信じられていたと伝わります。
骨折の治療や出産の痛みを和らげるための薬として使用されたこともあったそうです。
また、ジルコンは風化や侵食などにも耐えうるほど硬い結晶をもち、長い時間を経ても科学的にも物理的にも変化しにくい性質をもつことから、非常に古い岩石の年代測定に使用されるといいます。
ジルコンに含まれるウランなどの放射性元素は時間とともに放射壊変して娘核種と呼ばれる別の元素に変わっていくと考えられています。
この放射壊変の進行を明らかにすることで、そのジルコンが含まれている岩石の形成年代が大体分かるのだそうです!
何だかちょっと難しい話ですが、とにかくジルコンは地質学上とても重要な役割を担っているということですね!
ジルコン人気のヒミツ
ジルコンが愛される理由は沢山あるかと思いますが、こちらでは「ジルコンのココが好き!」とよく耳にすることを挙げてみました!
1.ダイヤモンドに負けないファイアの強さ
宝石でいう「ファイア」とは、光の分散によって虹色に煌めく光のこと。
分散光とも呼びますね。
ファイアが美しい宝石として最も有名なのは、言わずと知れたダイヤモンドです。
カラーレスのジルコンがかつてダイヤモンドの代替石に選ばれたのも、ラウンドブリリアントカットを施した際ダイヤモンドに似た輝きを見せることからだったといわれています。
現在では、この光の中で様々な表情を見せる強いファイアをジルコンの魅力の一つとしてコレクションする方も多いと聞きます。
ダイヤモンドとはまた違う、ジルコン特有のファイアも素敵なんです!
2.カラーバリエーションの豊富さ
先にもご紹介した通り、ジルコンはカラーバリエーションが豊富です。
人気のブルーの他にも、ピンク、ブラウン、オレンジ、グリーン、レッド、カラーレスなど色々あります。
色やカットによって、ファイアの見え方も異なり、ダイヤモンドなどに比べれば手に入れやすいものも多いため、コレクションしたくなるのかもしれませんね!
3.カラットが大きいものもある
ジルコンは時に大きく成長することがあり、過去にオーストラリアで2kg、ロシアで4kgの結晶が産出されたこともあるといわれています。
色によっても産出するカラット数に差があるようで、ブルーのジルコンは10ct位まではあるそうですが、イエローやオレンジの多くは5ct以下のもの、レッドとなると大粒のものは滅多に産出せず、たまに出回っても高額で取引されているようです。
大きいものはファイアも楽しみやすいので、それも人気の理由かもしれませんね!
ジルコンの価値基準と市場価格
では、実際にジルコンを購入したい!となった場合、見るポイントやお店の探し方はあるのでしょうか。
購入する際に参考となるような、選び方のポイントや市場での参考価格などを順番にご紹介します!
価値基準と選び方のポイント
どの色石にもいえることですが、透明度が高く鮮やかな色合いのもの程評価が高くなります。
色別ではブルーやレッドのジルコンは特に高く評価されます。
イエロー、オレンジ、ブラウンなどはそれに比べれば少し安価なものも見受けられます。
またカットの美しさもファイアの見え方に影響しますので重要なポイントですね!
市場価格
ジルコンはカラーやクオリティによって価格が変わります。
イエロー、オレンジ、ブラウンなどは、クォリティやカラットによってはルースであれば、一万円前後~見かけます。
人気のブルーや希少なレッド系は全体的に少し値が上がります。1ctサイズのルースですと、数万円~が多い印象です。
さらに、色が濃く、カットの美しいものとなると、数十万円以上するものもあります。
どこで買える?
宝石のルースを多く取り扱うお店であれば、実店舗でもオンラインショップでも比較的よく見かけます。
ミネラルショーや宝飾展などのイベントでも取り扱っているお店は多い印象ですので、比較検討ができると思います。
ジュエリーとなるとグッと数が減りますが、ない訳ではないですので、探してみると良いと思います。
お気に入りのものをルースで見つけて買って、オーダーメイドでジュエリーにするのも素敵ですね!
ジルコンのお手入れ方法
ジルコンのモース硬度は6.5 – 7.5で、靭性も高くありません。
強くぶつけたり、擦ったりすると表面に傷が付く恐れがありますので、特にリングとして使用する際は注意が必要です。
保管する際も仕切りのある箱や小袋に入れるなど、他の宝石と接触しないようにした方が安心ですね。
一般的にジルコンには退色性はないとされますが、加熱処理を施された一部のジルコンの中には直射日光に長時間さらされると元の色に戻ってしまうものもあるそうです。
念のため直射日光のあたる場所で保管したり、長時間放置することは避けましょう。
熱によって色が変化してしまうものもあるといいますので、ドライヤーの熱を直接あてたり、高温になりやすい場所に近づけるのは気を付けた方が良さそうです。
日常のお手入れは、身につけた後、柔らかい布で拭く程度で良いですが、汚れが目立つ場合は中性洗剤や石鹸を溶かしたぬるめのお湯の中で洗うと綺麗になると思います。
多少のアルコールは問題ありませんが、過度についてしまったら念のためしまう前にぬるま湯の中で洗ってあげた方が良いかもしれません。
超音波洗浄機、スチーム洗浄機は使用しないで下さい。
最後に
地球最古の宝石といわれるジルコン。
ダイヤモンドの代替石となったり、名前の響きが似ていることからキュービックジルコニアと勘違いされたり、不遇な扱いを受けてきた印象もありますが、実に魅力溢れる美しい宝石です。
さまざまな色が存在し、どの色も照り照りで虹色の強い輝きを放つのでついつい見入ってしまいます。
地質学的な時計のように、地球の歴史を知る上で重要な役割も担うジルコン。
金属ジルコニウムの鉱石としても広く利用され、耐腐食性に優れ融点が高い性質から原子炉の内壁や耐熱材料、セラミックスなどに使用されることも多いそうですよ。
本当に様々な形で私たちの生活を支えてくれているのですね!
こちらの記事を読んで、少しでもジルコンのイメージが変わった!と言ってもらえたら嬉しいです♪
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『ネイチャーガイド・シリーズ 宝石』
著者:ロナルド・ルイス・ボネウィッツ 訳:伊藤伸子/発行:科学同人
◆『価値がわかる宝石図鑑』
著者:諏訪恭一/発行:ナツメ社
◆『アヒマディ博士の宝石学』
著者:阿衣アヒマディ/発行:アーク出版発行
◆『ジェムストーン百科全書』
著者:八川シズエ/発行:中央アート出版社
◆『宝石ガイドブック』
発行:中央宝石研究所 ほか