宝石の色を強めたり変色するためにはあらゆる処理が施されます。
そのひとつが、拡散処理という方法です。
拡散処理は、色の要因となる元素を浸透させることにより色を変化させる手法です。
現在の宝石市場にはその拡散処理を施された宝石が多く流通しています。
しかしそれらは肉眼ではなかなか見分けがつけられないといわれています。
今回はそんな、拡散処理された宝石についてご紹介していきます。
目次
そもそも宝石に処理を施すのはなぜ?
宝石の原石は地中で生成していく長い過程の中で、内部に何らかの内包物が加わったり、ヒビ割れが生じたりすることも少なくありません。
色の出具合もバランスの良い美しい色合いのものもあれば、色ムラがあったり薄すぎたり逆に濃過ぎたりするものなどもあり、まさに千差万別、様々です。
しかし色の出具合や見た目が良くないものはカットしても宝石としての魅力が少ないという理由で売れ残ってしまったり、市場に出回らないものさえあったりします。
そこで、そういった石を減らすべく、宝石に処理を施して見た目を美しく変えてから市場に出すようになった、ということです。
言葉を変えると、「外観を美しく変えてからお嫁に出す」みたいな感じにも聞こえちょっと微妙な印象を受ける方もいるかもしれませんね。
しかし宝石の場合、美しくするために処理を加えることは決して不思議なことでも悪いことでもありません。
大切なことは、その宝石にどんな処理がされているかを事前にきちんと知ることができ、価値も含め全てを納得した上で購入できるかどうかです。
宝石の拡散処理とは
では、今回のテーマである「拡散処理」とはどんなものなのか。すこしずつ説明していきますね。
まず宝石をより美しく見せるためには、何種類かの処理方法があります。
例えば、加熱、染色、漂白、コーティング、欠けの充填、高圧高温、含浸、レーザー、照射・・・などなど。
どれも古くから行われている処理方法ですので、ご存知の方も多いかもしれませんね。
その中の一つが『拡散処理』です。
※その他の処理についてはこちらの記事もどうぞ
▶︎【決定版】宝石の処理とその価値についてまとめ
拡散処理の目的
拡散処理の目的は、宝石の色を強めたり変えたりすることにより、本来持っているものとは違う色にすることです。
そして、それによって見た目の良くない宝石を魅力的なものに変化させ、流通量を増やすことを目的としています。
拡散処理の方法
宝石に熱処理を施し、色の元となる元素を原子の格子内に浸透させることで行います。
色は永久?耐久性は?
処理後の色は、永久的に続くと言われています。
取り扱い上、特別な注意やお手入れなども特に必要ないとされています。
拡散処理の見分け方は?
一般的に、拡散処理が施されているかどうかを見分けるのは、大変困難だといわれています。
上の写真を見てください。
これは20年以上前に処理されたもので、特徴的な『ダークヘイロー』という黒点が見られます。
しかし最近は内包物がない『ベリリウム拡散処理』方法を使うことが多く、このような黒点は見られないとか。
そのため専門の鑑定機器で検査をしないと見分けることが難しいといわれています。
拡散処理が最も多いのはコランダム?
拡散処理が施された宝石の判別は、非常に難しいことが分かりましたね。
ちなみに、拡散処理が最も多く施されているのは、ルビーやサファイアを含む『コランダム』だといわれています。
1980年代には既にルビーやサファイアの色の要因である、クロムとチタンを原子に浸透させ、色の拡散処理が行われていたとか。
ただ当時はまだ色が石全体に行き渡るほどうまく浸透しなかったそうですが。
またアンデシンとラブラドライトに銅の元素を浸透させると完璧に変色することが明らかになり、これらの宝石にも拡散処理を施したものがあるようです。
ベリリウム拡散処理が登場!
そして2003年に、ベリリウムを浸透させる方法があることが明らかになりました。
ベリリウムは石全体に色を浸透させるため、クロムやチタンを使うよりも美しい色を表現することができるということが分かったのです。
これにより、拡散処理はパパラチア、イエロー、オレンジなど、コランダムが持つ多彩な色に使用されることになりました。
※パパラチアサファイアのベリリウム拡散処理についてはこちらの記事を↓
▶︎パパラチアサファイアに施される「ベリリウム拡散加熱処理」とは
ベリリウム拡散処理の宝石の価値は?
例えばベリリウム拡散処理が施されたパパラチアサファイアは、海外では1カラット200円ほどで売られることもあります。
しかしオークションやフリマサイトなどでは、このような品を『特殊な処理』『新しい処理』とだけ説明して、高額で販売しているケースもあると聞きますので、こういったあやふやな説明しかない場合は必ず注意するようにして下さいね。
拡散処理かどうかを見分けるには
勿論一番は鑑別書を見ることです。
こちらの過去記事でも説明しているように、2004年から鑑別書に『拡散処理のサファイア』と記載されるようになりました。
つまり、『拡散処理のパパラチア』は存在しないということで、拡散処理をしてパパラチア色にしたものに『パパラチア』という言葉を使ってはいけないのです!
なのでパパラチアとして売られている宝石に鑑別書が付属している場合は、必ずこの点を注意して見てください。
またフリマサイトなどでこういった説明をした高額商品を見つけたら、購入しない方が得策かもしれませんね。
まとめ
今回は、宝石の拡散処理についてのお話をお伝えしました。
拡散処理された宝石は、見た目だけでは中々判別が難しいものです。
特に、最近行われているベリリウム拡散処理は特殊装置で分析しないと分からないほど、巧妙にできているといいます。
まずは、ショップでの説明や鑑別書を良く確かめてから購入することをオススメします。
ただ、一つ勘違いしないで頂きたいのは拡散処理自体が悪いものではない、ということです。
きちんと明示された上で適正価格で販売されている分には問題ないのです。
問題なのは、販売業者が情報開示をせず、消費者に誤解を招く(もしくは騙す)ようなやり方で販売をすることです。
信頼のおけるお店を見つけたり、正しい知識を身につけたりすることで自分を守り、宝石との素敵な生活を楽しんでくださいね。
カラッツ編集部 監修