画像:ペリステライト
月のようなポワンと優しい光を放つ宝石、ムーンストーン。6月の誕生石としても人気がありますね。
その中でもブルーの閃光が浮かぶものをブルームーンストーンと呼びます。青い月だなんて、とても素敵なネーミングですよね。
石を傾けるとミルキーブルーの光もコロコロと動き、何ともいえない美しさと神秘的な魅力を感じずにはいられません。
そんな、古くから人びとの心をつかんで離さないブルームーンストーンですが、実は現在流通しているものの多くは、厳密にはムーンストーンではないとのこと!
どんな宝石がどんな事情でブルームーンストーンとして売られているのでしょうか。まさか、偽物が流通してしまっているということなのでしょうか⁉
かなり気になるので、その辺の事情について色々調べてみました。
目次
ムーンストーンとは
ムーンストーンは長石(フェルスパー)に属し、和名を月長石といいます。
長石は、カリウム、ナトリウム、カルシウムの3つを端成分にもつ固溶体鉱物のグループ名です。
固溶体とは、複数の端成分が溶け合ってできる鉱物のことで、長石の場合、カリウムとナトリウム、ナトリウムとカルシウムが溶け合って多くの固溶体が出来上がります。
カリウムとナトリウムの固溶体系列をアルカリ長石グループ、ナトリウムとカルシウムの固溶体系列を斜長石グループ(プラジオクレース)と主に呼びます。
実は、ムーンストーンは一つの鉱物を指す名前ではありません。ある条件を満たしたものに付けられる宝石名です。
そしてその条件とは、長石グループに属する鉱物の内、シラー(シーン)やアデュラレッセンスと呼ばれるあの特有の光学効果をもつもの、だそうです。
最も一般的なものは正長石(オーソクレース)を主体としたものです。
ブルームーンストーンとは
ブルームーンストーンはムーンストーンの中でも圧倒的な存在感があります。
私は昔スリランカに住んでいたことがあるのですが、産地ということもあってか、ムーンストーンはとても身近な宝石でした。
とにかく数が多く、ザクザクとありすぎて宝石店では無料でプレゼントされる類のもの、という印象が強く残っています。
スリランカの宝石店でトレイいっぱいのムーンストーンを初めて見たのは1987年のこと。もう30年以上も前になりますね~。
ムーンストーンの殆どは乳白色の地色で、白っぽい光が月のように浮かぶものでした。その中にブルームーンストーンもほんの少し混ざっていたのを覚えています。
それは一目で分かるほど、地色が透明でミルキーブルーの閃光が目立っていましたよ。普通のムーンストーンより少しお値段も高めでした。
その青い光は内側から浮かび上がるような感じで、石を傾けると光が蓮の葉の上の雫のようにコロコロと動くのが面白かったことを覚えています。
しかし現在は、ブルームーンストーンが採れることで知られていたスリランカの鉱山は閉山してしまい、本物のブルームーンストーンが流通することは殆どなくなってしまったそうです。
現在流通しているブルームーンストーン
画像:アンデシンラブラドライト
現在、スリランカで採れるブルームーンストーンは殆ど流通していないとお伝えしましたが、お店を覗くと今でもブルームーンストーンは販売されています。
それは一体、なぜでしょう。全て偽物なのでしょうか。
実は、現在市場に出回っているブルームーンストーンは別の鉱物であることが多いのだそうです。
ただ、別の鉱物と言っても、殆どが同じ長石グループに属し、かつ、似たような光学効果を示します。
先ほどご説明したとおり、長石グループは固溶体鉱物の集まりです。
近い成分組成をもつものも多いため、ブルームーンストーンに似ているものがあっても不思議ではありませんし、それらを全くの偽物とも言い難いというのが現状なのです。
それでは、現在ブルームーンストーンとして流通している宝石の名前や性質などを簡単にご紹介しましょう。
ペリステライト
現在ブルームーンストーンとして流通している宝石の一つは、ペリステライトです。
ペリステライトは曹長石(アルバイト)と灰曹長石(オリゴクレース)の中間体にあたる鉱物で、主にナトリウムを多く含みます。
ペリステライトも特有の光学効果を示し、ペリステライトがもつ光学効果はペリステリズムと呼ばれています。
半透明でカラーレスの地色にブルーの閃光が現れるものが、ブルームーンストーンとして流通しています。
ムーンストーンの定義で考えると、ペリステライトもムーンストーンになりそうですが、AGL(日本の鑑別団体協議会)では認められておらず、
鑑別書も
鉱物名:フェルスパー 宝石名:ペリステライト |
となり、備考に、『別名、アルバイト・ムーンストーンと呼ばれます。』などと書かれます。
ホワイトラブラドライト
曹長石(アルバイト)と灰長石(アノーサイト)の固溶体の一種であるラブラドライト。
ラブラドライトは、不透明でブルーやグレーなどの暗めの地色に虹色の閃光を現す宝石という印象が強い方も多いかもしれませんが、地色や見た目が異なるものも存在します。
ホワイトラブラドライトは半透明~不透明でカラーレスやホワイトの地色をもつものです。
ラブラドライトは、光を当てると表面に虹色の閃光を見せるラブラドレッセンスと呼ばれる光学効果をもちます。
ホワイトラブラドライトも多くは不透明ですが、中には透明に近い結晶もあり、青い光を発するものがブルームーンストーンとして流通しているそうです。
私はスリランカで強烈なブルーの光を放つホワイトラブラドライトを見たことがありますよ。
オーソクレース種などの本来のブルームーンストーンより透明度が高くてブルーの閃光が表面に強く現れ、華やかな宝石という印象をもったことを覚えています。
ホワイトラブラドライトもAGL(日本の鑑別団体協議会)の規定上ではムーンストーンにはなりません。
中には虹色の閃光を現すものもあり、それらはレインボームーンストーンとして出回ります。
アンデシンラブラドライト
アンデシンラブラドライトもまた、ブルームーンストーンとして流通している宝石の一つです。
斜長石グループである中性長石(アンデシン)と曹灰長石(ラブラドライト)の中間に位置しており、透明~半透明でカラーレスやホワイトの地色にブルーの閃光を現すものがブルームーンストーンとして流通しています。
ラブラドライトに近い組成をもつため、見た目も光学効果もラブラドライトに似ています。
アンデシンラブラドライトの光は、私がスリランカでよく見ていたブルームーンストーンよりは、青色が一層鮮やかな気がします。
アンデシンラブラドライトにも虹色の光が出現するものもあり、そちらもレインボームーンストーンとして流通しています。
4つのブルームーンストーンの違いと見分け方
4つのブルームーンストーンは、一見似たような外見をしていますが、どの様な違いがあるのでしょうか。
また、見分け方はあるのでしょうか。調べてみました。
4つのブルームーンストーンの違い
これらは全て長石グループではありますが、化学組成がそれぞれ異なります。
つまり、含まれる成分や成分比率が少しずつ違うため、似たような光学効果でも名前や特徴が変わるという訳ですね。
いずれも青白い光を発していますが、それをもたらす光学効果がそれぞれ違います。
ブルームーンストーンの光学効果はシラーやシーン、アデュラレッセンスと呼ばれるもの。
優しい感じのミルキーブルーの光を放ちます。ポワンと浮き出てコロコロと動く光だと私は思います。
ペリステライトの光学効果はペリステリズムです。
しばしば鳩の羽毛の光沢に例えられています。鳩の首のカラフルな部分は確かに光っていますよね。
ホワイトラブラドライトの光学効果はラブラドレッセンスです。
先程もお伝えしたように、虹のようにカラフルな光が出現するものもあり、それらはレインボームーンストーンとして流通しています。
4つのムーンストーンの見分け方
目の前のブルームーンストーンが厳密にどの宝石なのか、それを見分ける方法のひとつに、ホワイトやブルー以外の色が光の中に出現するかを見極めるというものがあります。
レッドなどの光があれば、ブルームーンストーンではない可能性が高くなります。ブルームーンストーンの光はホワイトかブルーだけであることが多いのです。
また、ムーンストーンには特有のムカデのようなインクルージョンがあるそうなので、ブルームーンストーンなのかどうかを知る手がかりになるでしょう。
ホワイトラブラドライトやアンデシンラブラドライトは、インクルージョンやクラックなどが多い傾向にあります。
それから私の個人的な印象ですが、ブルームーンストーンは内側から浮き出るような優しい光を放つのに対し、他の3つの宝石の光は強く鮮明なことが多い、という感じを受けています。
しかし紛らわしいものも多く、素人判断は難しいものがあります。気になる方は鑑別機関で調べてもらうなどの方法を取りましょう。
4つのブルームーンストーン、それぞれの魅力
画像:アンデシンラブラドライト
紹介してきました4つのブルームーンストーンには、それぞれに魅力があります。
画像も混じえて、ご紹介しましょう。
ブルームーンストーン
ブルームーンストーンの魅力は、何と言っても柔らいミルキーブルーの光でしょう。
ブルーの光は一定ではなく、個体ごとに強弱や出現する場所が違います。それぞれとても個性的なのです。
石を傾けると青い光も動くので、いつまでも見飽きませんよ。
かつてスリランカで見た高品質のブルームーンストーンが忘れられません。
大きなムーンストーンの頂に、くっきりと強いミルキーブルーの光が、丸く大きく浮き出ていました。
澄んで透明な地色と、ネオンカラーのようにも見えるミルキーブルーのコントラストが目に焼き付いているのです。
ペリステライト
ペリステライトの青い光もまた、とても魅力がありますね。
ペリステライトは、ギリシャ語で鳩を意味するPeristera(ペリステラ)が由来なのだそうです。
鳩の首周りの細かい羽根には色とりどりの光沢がありますが、ペリステライトの光沢も同様に素晴らしいものです。
ペリステライトは、見る位置を変えるとブルーの色味や印象も変わる気がします。
ブルームーンストーンの光よりもくっきりと光ることが多く、様々な色合いのブルーを見せてくれるでしょう。
ホワイトラブラドライト
ホワイトラブラドライトの青い光は鮮烈なものが多い印象です。
強く自己主張している光のようにも感じます。
ホワイトラブラドライトは内包物が多い傾向にあるのですが、それさえも魅力に感じてしまいますね。
ラブラドレッセンスの光学効果により、ブルー以外の色が出現することもありますよ。
アンデシンラブラドライト
アンデシンラブラドライトもまたブルーやレインボーの光が特徴です。
ブルームーンストーンのように内側からポワンと光るのではなく、ハッキリした光を発しているかのように感じます。
ムーンストーンと雰囲気は似ていますが、青色閃光がブルームーンストーンよりも強いものが多い印象です。
4つのブルームーンストーン、価値の違いと市場価格
ご紹介した4つのブルームーンストーンの内、最も価値が高いとされているのはスリランカ産の本来のブルームーンストーンです。
ただ、お話したとおり、現在殆ど市場に出ていないとされているため、いくらで取引されているのかは不明です。
私がスリランカにいた頃は、ブルームーンストーンが安く手に入っていました。無限にあるものだとばかり思っていましたが、もう殆ど流通していないことが分かり、資源は有限だと思い知りました。
高い価値が認められるブルームーンストーンとは、地色が透明で青色の閃光がはっきりと美しく、石の中央に浮かび上がってくるもの。
そしてカラットの大きさやインクルージョンの有無、キズや欠けの有無などが総合評価されて価格が決められているそうです。
昔スリランカの宝石店で
「ムーンストーンが入荷すると、まずブルーの光が出るものを選別し、そしてブルーの光の位置や大きさ、強さ、透明度を見てグレードを決めていく」
と言う話を聞いたのを覚えています。
市場価格
ブルームーンストーンは実際に、いくら位から購入できるものでしょうか。
スリランカ産のブルームーンストーンは、前述の通り現在流通していないために価格は不確かですが、鮮やかなブルーの閃光を放つ高品質のブルームーンストーンですと、カラットの大きいものであれば数十万円以上するものもあるそうです。
私がスリランカにいた頃は、品質の良いものでも数千円くらいからあったことを思うと物価が大きく変わったことが実感できます。
一方、ペリステライト、ラブラドライト、アンデシンラブラドライトは流通量も多く、クォリティや大きさによっては数千円から見つけることができるようです。
最後に
現在流通しているブルームーンストーンの殆どは本物ではない・・
ショッキングな出だしでしたが、スリランカにあったブルームーンストーンの鉱山が閉山となり流通が途絶えた、などの理由があることが分かりました。
厳密には別の鉱物ではあるものの、同じ長石グループに属し、ブルームーンストーンに似た光学効果をもつペリステライト、ラブラドライト、アンデシンラブラドライトが「通称:ブルームーンストーン」として売られることは一般的になりました。
決して全くの偽物ではないので、ご安心下さいね。
しかしながら、これらの宝石を販売する場合、本来の宝石名も明記することが必要です。
もしもブルームーンストーンとだけ表示してあるものを見つけたら、鑑別書を確認することをオススメします。
かつてスリランカで見たブルームーンストーンの美しさを思い出す度、またどこかで採掘されたら良いな、と心から思います。
カラッツ編集部 監修