宝石って美しいから宝石なんだよね?
確かにそうともいえますが、女性同様、多くの宝石は「おめかし」をしています。
宝石の「おめかし」のことを専門用語で「処理」と呼びます。
市場に流通している多くの宝石が「加熱処理」や「含浸処理」を始めとした様々な処理をされています。
今回は、そんな宝石の処理の歴史についてご紹介します。
宝石の処理について
たとえばルビーを買ったとき、鑑別書の「天然ルビー」の文字の下にこのような1文があったとします。
①「加熱が行われています」
②「キャビティ中に透明物質の充填を認む」
これは①の場合は「加熱」、②の場合は「充填」という処理を施していますよ、という意味です。
多くの宝石には何らかの処理がされていて、鑑別書にもその内容を明記することになっています。
宝石の処理の歴史
では、そんな宝石の処理の歴史について詳しく紐解いていきましょう。
・1820年代ごろ
この頃の宝石の処理にはコーティングや着色といったごく単純な加工の技術が用いられていました。
鉱物(宝石)の色を変化させるのではなく、石の見た目を良くすることが目的だったため、石や台座の表面に色を塗ったり、オパールやトルコ石など多孔質の鉱物を染色することが盛んでした。
この年代はとりわけドイツのイーダー・オーバーシュタインのアゲート(めのう)の染色の素晴らしさが話題となりました。
・1833年
この年は現代の宝石の処理の第一歩を踏み出した年です。ブラジルでアメシスト(紫水晶)を250度以上で加熱したら、なんと色が変わってシトリン(黄水晶)に変化したのです。
このことから宝石を加熱する処理の技術が一気に進みます。多くの職人が研究を重ね、500度前後の加熱でグリーンベリルがアクアマリンに、金色のインペリアルトパーズがピンクトパーズに変化することがわかりました。
これはいわゆる「加熱処理」という加工です。地球のマグマの温度の変化で宝石の色が変わるのは自然のなりゆき。それを人工的に補うための処理というわけですね。
・1960年代
昔からルビーやサファイアの加熱処理は行われていましたが、1960年代はじめにタイで黒っぽいルビーを1900度前後で高温加熱すると、透明度の高いルビーができることが発見されました。
この高温加熱処理は、現在出回っているほとんどのルビー、サファイアに行われています。
・1970年代
ルビーやサファイアの表面拡散処理のほか、この年代になると放射線による処理が始まりました。
この放射線処理をした宝石は、無色のトパーズがブルートパーズに、無色のベリルがイエローに、トルマリンをピンクや赤に、スポジュミンをピンクに変えるなど、多彩な発色が可能になりました。
これは加熱ではなく、鑑別書には「照射されたもの」と記載されるようになり、この頃から宝石の加工技術が多岐にわたり行われるようになりました。
・2001年以降
21世紀に入ると、サファイア(コランダム)にベリリウム拡散処理をすると、美しいピンクやオレンジのサファイアができるようになり、サファイアの市場が混乱するようになりました。
美しすぎる「おめかし」は、「天然」という宝石の存在を脅かすようになったのです。
そしてこれらの技術の革新はダイヤモンドにも及び、HPHTと呼ばれる高温高圧処理によって処理されたカラーダイヤモンドができるようになりました。
現在市場に出回っているブルーのダイヤモンドの多くはこの処理を施されたものです。
天然で色の美しいブルーダイヤモンドを見つけることは難しいため、この処理の発展によって以前よりブルーダイヤモンドが身近な存在になりました。
最後に
いかがでしたか。
宝石の色を美しく加工する技術は、単純なものからハイテクなものまで実に様々です。
ここで気をつけて欲しいことは、
高温で加熱されて色が改良された宝石は、その後色が変わることはありませんが、オイル処理や含浸、ワックス加工などをされた宝石は、洗浄の仕方や使い方によって色が変わってしまうこともあるということ。
宝石によって、処理によって、取り扱いに注意すべきポイントが異なる場合もあります。
そしてもう一つ重要な点。
時々「処理をされた宝石は価値が下がる」「宝石に処理を施すことは良くない」と思っている方がいらっしゃいますが、そうではありません。
通常的に行われ、かつ処理の有無が科学的に解明しにくい宝石も多々あり、それらは処理の有無によって価値が著しく下がることはありません。
中には宝石の価値を下げる処理もありますが、それについても、きちんと明示して販売されているものを納得して購入する分には問題ないのです。
悪いのは処理を施していることではなく、処理を施していることを隠して適正価格より高く売ることです。
正しい知識を身につけて、宝石とぜひ末永い付き合いをしてあげてくださいね。
カラッツ編集部 監修