どうですか!この美しさ!
コレ、機械などでサクッと作られたものではもちろんございません。
一つ、一つ、人の手で丁寧に作られた
「甲州貴石切子」
という、もはや芸術作品としか言いようのない宝石ルース。
「切子」といってまず思い浮かぶのはカットグラスではないでしょうか。
「江戸切子」や「薩摩切子」が有名ですよね。
その切子をなんと「宝石」に施してしまうとは!!
「甲州貴石切子」
石好きさんの間ではもはや常識かもしれませんね。
技術、品質、美しさで世界に類を見ない、生粋のMade in japan。
世界初のカッティング法(2017年に商標登録済)といわれ、各界から熱い注目を浴びているとか。
そして今回その「甲州貴石切子」の生みの親であり、製作者の一人である「ジュエリークラフトフカサワ」の代表・伝統工芸士の深澤陽一氏にインタビューする機会を頂きました!
深澤氏と言えば、宝石の街山梨県甲府市を代表する名匠。
その業界では名の知れた結構スゴイ人です。
そんな方にお話を伺えるとは!
うーん素晴らしい♡
この100%ハンドメイドの「甲州貴石切子」は一体どうやって生まれたのか?
そしてどこで買えるのか?
皆さん気になりますよね?よね?
そしてさらに進化しているというウワサも聞きつけましたから
マルっと色々ご本人に聞いてきましたよ!!
では早速どうぞ!
目次
そもそも「甲州貴石切子」とは何か?
冒頭でお話したとおり、「甲州貴石切子」とは江戸切子や薩摩切子のような切子の技法を使ってカットされた宝石のこと。
それは見事なカットで、ずっと見ていても飽きがこないような美しさがあります。
この美しいカットは、深澤氏とさくらインカットでも有名なシミズ貴石の社長清水幸雄氏とのコラボレーションにより生まれたといわれています。
切子面を深澤氏が、ファセット面を清水氏が担当、名匠二人の技が合わさって成り立っている新しいカッティング方法です。
こんなスゴイものを一体いつ思いつき、どうやって完成させたのでしょうか?
早速インタビューしていきましょう!
甲州貴石切子はどうやって生まれた?
名匠にインタビューできるとあって、颯爽とやって来ました、山梨県甲府市!
お忙しい身にも関わらず、深澤氏は数ヶ月に一度山梨ジュエリーミュージアムにて宝石研磨体験の講師をされています。
今回はそのお仕事の合間をぬって、インタビューの時間を作ってくださいました。
山梨ジュエリーミュージアムの紹介と研磨体験の様子などは別記事にて公開していますので、良かったらこちらもぜひご覧くださいね☆
改めまして、今日はよろしくお願いいたします。
「はい、よろしくお願いします。」
まずは「甲州貴石切子」の誕生にまつわるお話から聞かせて下さい。
先ほどインタビュー前に伺った話では、元々深澤さんが思いつかれて、清水さんに相談したところから始まったというお話でしたが。。
「そうだね。昔から頭の中にいつか作ってみたい、というのがあって、時期が来て、清水さんに声を掛けたって感じかな」
なるほど。そもそも作ってみたいと思ったきっかけは何だったのですか。
「昔、まだ若かったころムーンシュタイナー(ドイツの有名な宝石研磨職人)の作品を見て感動して、いつかこういうの俺も作りたい、って思ったのがキッカケかな」
でもそこからどうやって甲州貴石切子に繋がっていったのですか?
「どうやって・・・か。難しい質問だね。どうだったかな。頭で考えてできるものでもないから説明が難しいなー。」
そうですよね。ちなみに思い付いてから形になるまでに大体どれくらいの時間が掛ったのですか?
「・・甲州貴石切子として世に出るまで、そうだな、構想が浮かんでから実現するまでに何だかんだ 約20年くらい掛ったのかなー。」
20年!!そんな長い歳月を経て。。。
「ちょっと大げさな言い方かもしれないけどね(笑)。別に20年間ずっと取り組んでいた訳じゃないよ。ただいつも頭のドコかにあった。」
それはつまりムーンシュタイナーを見てからずっと?
「だと思う。」
それでまずは自分で作ってみたと?
「うん。ただ最初から頭にはあったけど、それを形にするだけの技術がなかった。なので実際に原型になるものを作ってみたのは多分4~5年前位だった。と思うんだよなあ。うん、多分それくらい。それがプロトタイプ。だと思う。」
首をかしげながらゆっくり当時を思い出しているかのような深澤氏。
「当初、つまりムーンシュタイナーの作品を見たとき、何となくやり方は分かったわけ。でもそれを作れるだけの技術がまだなかった。だからとりあえず置いといて。まずは技術を身につけて。技術が追いついて、実現できるようになるまでが多分20年くらい。定かではないけどね。」
20年。言葉で言うよりずっと長いですよね。もしかして、その頃深澤さんはまだ学生?職人にもなっていなかった?
「うーん、どっちだったかは定かじゃないけど。いずれにしても親父が宝石研磨の仕事をしてたから。まあ、触れる機会は多分あった。はっきり覚えてないけどね(笑)」
余談ですが、実は深澤氏は若いときはミュージシャンになりたかったとか。
愛用の楽器はサックス。今でも地元の方と音楽活動は続けているそうです。
で、何となく形になってきたところで、清水さんにお話をされて、お互いに講師をされている山梨県立宝石美術専門学校の授業の合間などに試行錯誤を繰り返して、完成。現在に至る、ということですね。
「まあそうだね。」
甲州貴石切子の製作工程とは?
誕生秘話を伺った後は、単刀直入に、甲州貴石切子の作り方を教えてください!
「製作工程?まず原石からスタートするよね。そこからプリフォームっていうのを作る。」
プリフォーム。荒削り?
「そうそう、外形のね。荒削りして、まず一番最初に決めるのが外側の形。
オーバルだったりスクエアだったり、変形だったり色々あるから。で、そこから切子の形を決めて、石に下書きをする。」
なるほど。それから、それから?
「一番最初にこう放射線状に、石に下書きをするわけ。実はこの下書きが一番重要で、ここで手を抜くと、絶対綺麗な「切子」にならないんだよね。」
なるほど!正確に狂いなく描くことが重要なんですね!
「うん。多分、100分の1とか。10分の1だともう駄目。
まあ完璧に、というよりは、100分の1の狂いもないことを「目標」にして書くという感じかな。大体途中で嫌になっちゃうんだけど(笑)」
でしょうねー。でもきっと匠と素人の違いはこの下書きの正確さ、緻密さにあるような気がします!で、次は?
「次は毛引き。まずは描いた線の上に、細工台(彫刻機)で細い線を作っていく。そこから荒削りでV溝を作って、その後に中摺り、仕上げ摺り、磨き。」
なるほど。荒削り、中摺り、仕上げ摺り、磨き、ですね。
「これで切子の面は仕上がり。で、その後に表側のファセット面。」
それは清水さんが仕上げる?
「そう、それは清水さんがやってる。」
ちなみに甲州貴石切子はどっちの工程を先にやっても良いんですか?
「大丈夫。なのでお互いに始めて、できたら交換したりするよね。」
切子の種類はどれくらいあるの?どんな宝石も切子にできる?
切子のデザインの種類はどれくらいあるんですか?この文様は、昔からある江戸切子とか薩摩切子と同じですか?
「うん。基本商品として使ってるのは、昔からある日本の文様(斜格子、魚子、霰など)がベース。切子の模様はだいたい5パターンかな。」
石によって作りやすさは違うのですか?硬度によってとか。例えばフローライトみたいな硬度が低い石は作りにくいとかはないのですか?
「基本みんな一緒。でも石は1つ1つ違うから。まあ、フローライトみたいな硬度の低い石はやめた方がいいけどね。」
それって例えばダイヤモンドでもできるんですか?
「ダイヤね~。言われたことはあるけど。実はダイヤは全く別物なんだよね。
ほら、結局ダイヤはダイヤでしか削れないじゃない、硬度が高いから。だからやるならそれができる機械も必要だし、まずは投資しなくちゃ始まらない。もしその機械があるなら多分できると思うけど。」
なるほど。それにダイヤは「カラット」(重さ)も重要です。高価なダイヤをカッティングするのは確かにリスクが高いかも知れませんね。
ガラスの切子と甲州貴石切子の違いは?
江戸切子のようなガラスの切子と甲州貴石切子は素材以外に何か違いがあるのでしょうか?
「江戸切子も薩摩切子も、オリジナルっぽいけど、もともとはヨーロッパのカットグラスの技術を継承して、それがベースになってるから。実は工程はみんな一緒だよね。」
それは甲州貴石切子も同じ?
「うん、基本はね。でも、ガラスとの違いは、宝石のほうがもっと工程が複雑だね。宝石は多種多様でしょ。石によって硬さや劈開性(※)とか特徴がみんな違うから。もちろん大きさもね。」
※劈開性(へきかいせい):特定方向からの衝撃に弱いという石特有の性質。石によって劈開性の有無や方向、方向の数などが異なる。
そうですよね。特に一番の違いは「大きさ」ではないでしょうか。
石の大きさの限界って?最小サイズはどれくらい?
100分の1の狂いも許されない、甲州貴石切子のカッティング。ちなみにどれくらいの小ささまで可能なのですか?
「今の所、一番小さいので6ミリ。」
6ミリ!それはどの宝石でも?
「できる。」
それはでも深澤さんだから?
「今のところはね。」
皆さん、聞きましたか!?6ミリですよ!(ちなみに5円玉の孔径は5mmです。お財布から出して見てみてください。)
こんな小さなサイズにわずかの狂いもなく、シャーペンで下書きして複雑な工程を経て削っていくなんて・・・。さすが名工。素晴らしい!
実は進化していた!「甲州貴石切子plus Three」とは?
甲州貴石切子に新たな形が誕生したと聞きましたが、それはどういったものですか?
「甲州貴石切子を作り始めて色々やっていく中で、また別の形、もう少し自分独自といえる物を作っても面白いかな、と思い始めて。どうすべきか考えたときに、市販の石で、キューレットが深くて、使いにくい石ってあるじゃない?そういう石を思い切ってキューレットを削って、そこに切子を入れたらどう?って思って、作ったのがコレなんだけど。」
あぁ、きれいですね!元々は市販されている石だったんですね。
「そうそう。昔の宝石ってテーブル面が広くて腰高(ファセット部分が高い)の石が多かったんだよね。そういう石のキューレットをカットして切子をつけて、いわゆる『石のリメイク』みたいな感じかな」
テーブル面が大きくて切子もキレイに見えますね!
「そうそう、テーブル面からストレートに切子が見えて、クラウン部分のカット面に切子の形が映るんだ、ランダムに。」
最初は清水社長とのコラボでできた「甲州貴石切子」。
そこから発展して、眠っている石を活かしませんか?というコンセプトの基に、「よりきれいに・よりキラキラで・より和風に」と考えて作られたのが、深澤さん独自の「甲州貴石切子plus Three」だそうです。
いいですね!ちなみにこれは今までの甲州貴石切子を作るよりも簡単なんですか?
「一緒一緒。難しさは全然変わらないよ(笑)」
そうですよね。。むしろ裏をカットする手間が掛りますよね。。
一般オーダーは受け付けているの?お値段は?
こちらの甲州貴石切子plus Three、自分の持っている宝石からでも作れると伺ったのですが?
「できるよ。オーダーは最短で納期は2ヶ月くらいかな。」
それはメールかなにかでオーダーできるんですか?
「うーん、基本業者を通してしか受けていないかなあ。展示会で出している業者がいたらそこで交渉してみるとかしか今はないかな。」
ちなみにこちらの切子のお値段は?
「・・・内緒」
えー、内緒なんですか?
「だって一般の人も見るサイトでしょ。そこは言えないよ。」
そうですか、、業者さんに直接交渉して聞くしかないのですね。。
ちなみに、石の種類によって値段は変わるのですか?
「大体一緒。ただ、最後にダイヤで仕上げないといけない石(硬度8以上の石)は3~4割位は高くなっちゃう。」
この中では?
「ブルートパーズ。硬度8か8半がギリギリかなあ。トパーズ系から上はダイヤ仕上げ。」
つまりサファイアとか、硬度の高い石は値段も高い、ということですね?
「うん」
ちなみに、これらはどこで買えるんですか?
「俺のは、やっぱり基本業者対象の展示会とかなんだよね。一般入場可能なミネラルショーは殆ど出てない。甲府のジュエリーフェアやジェムマーケットなど一部出るものもあるけど。」
なるほど。基本は業者向けのみだけど、一般の人が買える場所もない訳ではない、ということですね。
「まあ、そうだね。」
展示会に出ることになった場合は深澤さんのTwitterなどに情報が出ますよね?
「うん・・・。多分。なるべく情報としてあげるようにはしてる。」
ちなみに、なんていう名前で出展されているんですか?
「ジュエリークラフトフカサワ。」
だそうです。皆さん、気になる方は要チェックです!!
進化し続ける甲州貴石切子。今後の野望は?
それでは最後に、深澤さんの今後の野望は?
「野望?野望はまあ、色々プランはある。でも基本は切子。これを、なんだろ、マイナーチェンジじゃなくてモデルチェンジ的なものを考えてはいるんだよね。でもまだ俺の中でもはっきり形になっていないね。」
ちなみにこれは?個人的に凄く気になるんですけど。
「これは全部僕が作ってる。」
目の前にあるのは数センチほどの小さな可愛らしいハリネズミ。しかしそのコロンとした背中全てに、緻密な切子模様がカッティングされています。
これってすごくないですか!この球体全て切子が彫ってある!
「これは図面上は直線なんだよ。それを3次元の球体に仕上げてる。理屈を知らないとできない。」
凄い!こんなに可愛いのに、きっとお値段は可愛くないんですよね!?何十万円とか?
「うーん、多分。まだ値段は決めてないけどね。作るの嫌なんだよね、面倒くさすぎて(笑)」
そんなことおっしゃらずにこれからも素敵な作品を沢山作ってくださいね。
今日はお忙しい中貴重なお時間をいただき有難うございました!
最後に
あっという間のインタビューでした。
素敵なお話がイロイロ伺えて本当に楽しかったです!!
楽しく、柔軟に、そして果敢に挑戦を続ける深澤氏。
これからもきっと素敵な作品を生み続けられるのだと思います。
最後にもう一つだけ深澤氏の作品をご紹介させてください♪
ミュージアムに展示されていた作品で、目下私の一番のお気に入りのスカルリングです。欲しい!
ハリネズミもキュートですが、個人的には、このスカルのペンダントとか、ピアスが欲しいな!!
宝石の街、甲府には本当に素晴らしく、熱い心をもった職人の方々が沢山いらっしゃるな、と今回改めて思いました。
機会があればまたぜひ、どなたかにインタビューできたら良いな♪と思います。
これからも深澤氏を、甲府の職人さんたちを、注目していきます。本当に有り難うございました!
カラッツ編集部 監修