「エカナイト」
なかなか聞き慣れない宝石名かと思いますが、皆さんはどれくらい「エカナイト」についてご存知ですか。
希少性が高く、一般的な流通量が少ないため、街で見かけることは殆どないと言っても過言ではない宝石です。
宝石好きでレアストーンにも精通されている方なら、何となく耳にしたことがあったり、実際に見たこともあるかもしれません。
『放射性物質を持つ宝石』ということもきっとご存知でしょう。
しかし多くの方は、あまり深くはご存知ない、未知の宝石ではないかと思います。
ということで、希少石「エカナイト」について色々調べてみましたので、特徴や名前の由来、放射性物質を持つことによる影響、価値基準など、詳しく解説していきますね!
目次
エカナイトとは?
エカナイトは、1953年に発見されたといわれる比較的新しい宝石です。
スリランカを中心に見つかっていますが、全体的に産出量が少なく、宝石品質のものは更に希少です。
最大の特徴は、天然の放射性物質を含むということ。取り扱いには注意が必要です。
結晶は透明または半透明で、緑から茶色までの色合いを呈します。
コレクター向けにカットされたものがほとんどで、ジュエリーに加工されることは滅多にありません。
鉱物としての基本情報
鉱物としての基本情報は以下のとおりです。
| 英名 | Ekanite |
| 鉱物名 | エカナイト |
| 分類 | フィロケイ酸塩鉱物 |
| 結晶系 | 正方晶系 |
| 化学組成 | ThCa2Si8O20 |
| モース硬度 | 5 – 6 |
| 比重 | 3.28 – 3.32 |
| 屈折率 | 1.57 – 1.59 |
| 光沢 | ガラス光沢 |
エカナイトの特徴、色、光学効果
次に、エカナイトの特徴と色、含まれるインクルージョン、光学効果についてお話していきましょう。
エカナイトの特徴
宝石品質のエカナイトは、主にスリランカの漂砂鉱床で半透明のグリーンの砂礫として発見されます。
漂砂鉱床で見つかる宝石の多くは、水などの摩擦により丸みを帯びた形状をしているのに対して、エカナイトは表面に多数のくぼみや空洞、隆起などがある、不均一で凸凹した形が多いのだそうです。
隕石の衝突によって生まれる天然ガラス、モルダバイトによく似た外見をもつものもあるのだとか。
エカナイトは、トリウム(Th)とウラン(U)を含有することにより、強い放射性を持つのが大きな特徴です。
そのため、内部からの放射能により、結晶格子が破壊されて非晶質化(メタミクト化)するケースも多いといわれています。
不均一でくぼみが多い表面も、メタミクト化の影響なのかもしれませんね。
エカナイトの色
純粋なエカナイトは、麦わら色から無色を示すことが多いそうですが、宝石品質のものは、グリーン系が多く見つかっています。
黄緑色やエメラルドグリーンを呈するものもあり、色が濃く鮮やかなものは高価格で扱われます。
また、メタミクト化されていない、結晶質(非メタミクト)のエカナイトの中には、含まれるインクルージョンの影響で、濃い赤色や茶色に見えるものもあるそうです。
そのほか、黄色や黒色のものが見つかったこともあります。
エカナイトに含まれるインクルージョン
エカナイトは、インクルージョンを多く含むという特徴もあります。
板状や棒状、針状、二相インクルージョン、放射状ハローを伴う結晶のほか、気泡や他の鉱物を含む場合もあるといいます。
前述したように、細かいインクルージョンが入ることで地色が変わって見えることもあります。
光学効果
エカナイトの中には、スター効果(アステリズム)やキャッツアイ効果(シャトヤンシー)、チンダル現象などの光学効果を見せるものもあります。
スター効果とキャッツアイ効果
スター効果やキャッツアイ効果は、多くの宝石に見られる光学効果です。
光を当てると、スター効果は4条から12条の、キャッツアイ効果は一筋の光の線が見られるものです。
6条のスター効果を示す宝石が多いなか、エカナイトの場合、4条のものが最も一般的。
初めて発見されたエカナイトも、4条のスター効果を示すものだったそうですよ。
過去には6条や8条を示すものが見つかったこともあります。
チンダル現象
チンダル現象とは、微粒子を含む液体や気体、コロイド溶液の中で光を当てたとき、光の散乱により光の筋が見える現象を指します。
身近な例えで言うと、雲の切れ間から太陽の光が差し込む、いわゆる「天使のはしご」と呼ばれる現象や暗い部屋の中に光が差し込んだ際、ホコリが舞う様子などがそれに当たります。
エカナイトの内部に含まれる微細なインクルージョンによってチンダル散乱が見えることがあり、通常は曇って見えるエカナイトが別の色に変化して見えることがあるのだそうです。
青色に変化することが多いとされ、ローズクォーツなどに見られる現象としても知られます。
エカナイトの産地、産出場所と原石の形
エカナイトがどんな場所で採れるのかについても少し深ぼってお話していきましょう。
産地
主な産地は、発見地でもあるスリランカですが、カナダやミャンマーなどでも産出されます。
先に、エカナイトの多くはメタミクト化が見られるとお伝えしましたが、カナダでは、非メタミクト(結晶質)のエカナイトが見つかることもあるのだそうです。
そのほか、イタリア、キルギス共和国、アメリカ(カリフォルニア州)などで見つかったこともあります。
産出場所と原石の形
宝石品質のエカナイトは、二次鉱床である、川などの漂砂鉱床で主に見つかるといわれています。
そのほか、火山からの噴出物や迷子石(※)である閃長岩の巨礫の中から見つかることもあるそうですよ。
迷子石に含まれ、生まれた場所と異なる地で見つかるとはちょっとロマンがありますね!
非メタミクトの原石の形は、柱状、粒状、ピラミッド状などをしているといいます。
1ct前後で見つかることも多いとされるエカナイトですが、大きいサイズのものが見つかることもあります。
2016年にスリランカで発見された、当時世界最大の498ctの原石やカボションカットが施された、161ctのスターエカナイトなどが知られています。どちらも想像を超える大きさですね!
※氷河によって削り取られ、長い年月をかけ別の場所に運ばれた後、氷河が溶けてその場所に取り残された石のこと
エカナイトの歴史と名前の意味
エカナイトは、1953年にスリランカで発見され、発見者である、宝石学者F.L.D.Ekanayake氏に敬意を表し、その名が付けられたといわれています。
その歴史の始まりは、Ekanayake氏が、1953年にスリランカのコロンボにある市場で購入した、カボションカットが施され、スター効果を見せる2石の“宝石”でした。
ガラスのような性質でありながら針状結晶を内包するという、不思議な特徴をもつ、その非晶質の宝石たちを新鉱物ではないかと考えたEkanayake氏は、分析のためロンドンの研究所に送ります。
そこでバジル・アンダーソンらにより検査・研究がなされ、珍しい光学的・物理的な性質を持つことが判明しました。
のちにEkanayake氏は、スリランカのラトゥナプラ近くのエヘリヤゴダにある砂利層で、それらの宝石の原石も発見。現在その地は、エカナイトの原産地として知られています。
そして、発見から7年経った1961年に、バジル・アンダーソンら数人の研究者によって、新種の鉱物であることが発表され、発見者である“Ekanayake”に因み、「エカナイト(Ekanite)」と名付けられました。
エカナイトがもつ放射性物質。人害はある?取扱い方法は?
エカナイトは主成分の中に、放射性物質であるトリウムと微量のウランを含みます。そのため強い放射線を放出する可能性があることから、取り扱いには注意が必要です。
同じカラット数でロータイプのジルコンと比較した場合、エカナイトは数十倍放射性が高いという報告も出ています。
ジュエリーとして着用しても害はないというレポートもありますが、賛否があるようですので、心配な人は、念のため身につけないようにした方が安全です。
宝石として販売されているものの中には、放射線検査済のものもありますので、そういったものを探し、観賞用に持つのが無難かもしれませんね。
取り扱い方法
エカナイトが放つ放射線で、特に注意したいのは、他の宝石の色に影響を与える恐れがあるということ。
保管する際には密閉容器などに入れ、他の宝石と別々にすることが大切です。
人害を及ぼす可能性もゼロではないことを考えると、鑑賞する時以外は、しまっておいた方が良いかもしれません。
エカナイトの価値基準と市場価格
エカナイトを買いたいけれど、どのような基準で選べばよいか分からない…。
そうお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。
エカナイトの価値基準と市場価格、購入できる場所などについてお伝えしていきます。
価値基準
エカナイトは色が濃く、より鮮やかであるほど、価値が高くなります。
特に、エメラルドグリーンや黄緑色のものが評価が高いとされます。
その他、透明度の高さ、カラットの大きさ、カットの美しさなど、クオリティが高くなるにつれて、その価値が上昇します。
市場価格
エカナイトのルースは、大きさやクオリティによっては、1万円以下で入手できるものもあります。
色が濃く鮮やかで1ct以上という高品質であれば、数万円以上する場合もあります。
さらにトップクオリティのルースとなると、大きさによっては10万円以上になるものもあります。
どこで買える?
現在のところ、エカナイトを取り扱っているショップは少ないという印象です。
レアストーンの取り扱いの多いショップや、ミネラルショーなどで時々見かける程度です。
最後に
エカナイトは1950年代に発見された、比較的新しい宝石ですが、市場ではあまり出回っていません。
スター効果やキャッツアイ効果などを見せるものもあるなど、宝石好きの興味をそそる宝石かもしれません。
魅力的なエカナイトですが、放射性物質を含むので、取り扱いには注意し、安全の範囲で楽しむようにしてくださいね。
カラッツ編集部 監修
<この記事の主な参考書籍・参考サイト>
◆『有名石から超希少石まで美しい写真でよくわかる 宝石図鑑』
著者:KARATZ 監修:小山慶一郎/発行:日本文芸社
◆https://www.gia.edu/ ほか






















